宛先のない手紙-5
私はあなたにママって呼んでほしかったです。あなたに会いたいと、今では心から思っています。全てが過ぎ去ってしまった後に、私はそれを祈ります。もしも、時間を巻き戻せるなら、私はあなたを産みます。パパはいなくてもいいから、せめてあなただけでもいてくれたら、そっちの方がよっぽど幸せでした。生活は大変になるかもしれないけれど、きっとその方が楽しかったです。その方が幸せです。それも叶わないのなら、ただ一目だけでいいから、私はあなたに会いたい。
中絶は恐ろしいことです。悪魔に魂を捧げるような行為です。謝っても、あなたは許してくれないでしょうが、一言だけ。ごめんなさい。愛しています。これからも、ずっと。
手紙はそこで終わっていた。最後の項の一番下にはエコー写真が貼り付けられていて、僕はそこに小さく、はっきりとは映し出されていない命の残像に触れる。白黒で光沢のある薄い紙の上を撫でる。
名前も与えられないままに、決して美しいとはいえないこの世界に産み落とされることさえ無く消え去った命。
その口は、歌うことも。
その顔は、笑うことも。
その手は何かを掴むことも無く。
あるいは、僕が今感じているような絶望すら。