EP.3 お兄ちゃんは超コスヲタ-3
「仕方ないな、見せられないなら自分で着るか」
「着る。着ればいいんでしょ?!わ、私、スタイルには自信あるもん!」
「・・・・・・・・・ケッケッケッ、いい子だ」
・・・やっちゃった。
そう思った時には既に遅く、涎を垂らした兄に警官の服を渡されていた。
啖呵を切ってしまった以上、待ったは効かない。覆水盆に帰らず。
「馬鹿のくせに私を嵌めるなんて・・・この悪魔」
「ふっ、その馬鹿にのせられた妹。可愛いわよねぇおっほっほっほっ」
「破くぞ!」
「女に二言はないでおじゃる、そうでおじゃろう?」
「ころころ口調を変えるな!」
決意をした、というよりは逃げたら今後立場が不利になると考えたひかりは、脱衣場に向かった。
渡された衣装に紙が挟まっており、着衣の順序が記載されている。
手書きで絵まで描いてあり非常に解りやすく、その几帳面さに思わず鳥肌が立った。
「なにこれ、婦人警官はスカート長めで多少いもくさい方が萌える・・・知るかっ!」
ひかりはまだ気付いていない。
嫌がっているくせに、鏡に写る警官姿の自分を万更でもないと思っている事を。
「はい、これで満足?」
「意外と似合ってるな。足が短いところが萌える」
「・・・ああん?」
どうやら、煽りではなく本当にひかりのスタイルが悪いと思っていたらしい。
シスコンのくせして意外に手厳しいのだ。
「帽子の被り方もいいな。前髪を分けて、強気な印象に見せるのがポイントだ。お前センスあるぞ」
「言ってる意味がよく分からないけど」
てっきり視姦でもしてくるのかと思いきや今度は誉められ、ひかりは悪い気分では無かった。
「他のも見たいな。次はこれなんかどうだろう」
「えっ、これ?!」
ナース服を渡され、思わず躊躇してしまうが、そこで典明と目が合ってしまう。
・・・思った程いやらしい顔はしておらず、心から楽しんでいる様に見えた。
「・・・じゃあ、これで終わりにしてよ」
「お前はいい子だ。楽しみにしてるぞ」
ひかりはもう一度脱衣場に赴き、着ていた警官の制服を体から外す。
さっきと同じくナース服にも説明書が挟まっていて、手書きで着衣方法が記されていた。
(そういえば、まだちっちゃい時はよく新しい服買ってもらったら見せてたっけ)
さっきの典明の喜び方は、子供の頃に見たのと全く変わっていなかった。
どこが萌えるだとか変な説明を抜かせば、あの頃と同じだ。
妹がおしゃれするのを一緒に楽しんでくれた無垢な兄は、時を経て立派な屑野郎になってしまった。
「ナース服はピンクや白を選ぶ奴は素人だ。青こそが相応しい。青は母なる海の色だから・・・だから知るかっ!」
鏡の前でポーズを取りながら、無意識のうちに典明が喜んでいる姿を想像していた。