EP.2 お兄ちゃんは超テッペキ-5
「まったく、いつも前を見ろと言ってるだろ」
「しょうがないじゃん、色々考えてたんだから」
今更だがあの不良達はとんだ災難である。
「普段から忘れ物は多いし、お前はちゃんと見てないと駄目だからな」
「そっ、そんなの・・・!」
言い返そうとしたが典明の言うとおり、自分は呼吸をする様に物を忘れている事に気付く。
典明は変態のストーカーという部分を除けば、行動自体はまともだった。
「こ、これからだもん。ちゃんと気を付けるから」
「どうだかなぁ。そのうち服着るの忘れて外出るんじゃないか」
「あんたが言うな!!」
それはその通りである。
家に着いたら時刻は既に9時近かったが、電気が点いていない。
両親が寝るのはもっと遅いので、もしかしてまだ帰宅していないのだろうか。
近づくにつれてひかりの嫌な予感が膨らんでいく。
テーブルに置いてあった書き置きで、その予感は的中し、さらに思っていたよりも現実は残酷だった。
¨〜典明・ひかりへ〜
パパとママはこれから旅行に行ってきます。
飽きたら帰ってくるからそれまで留守番お願いします。
追伸・しばらく携帯が通じない所に行きますけど、寂しいからって泣かないでね¨
ひかりが泣きたいのは別の理由だった。
(何よ、このお約束!さっきの不良といい、お約束なんて大嫌いだああああ!!)
思わず、このご時世に長期休暇を許す会社を取り敢えず恨んでしまう。
「へえ、珍しく空気を読んだらしいな」
書き置きを見つめる典明の背中から、どす黒い屁泥の様なオーラが漂っている。
振り返りにたにたと笑う口の端から触手の様に舌を蠢かせ、ひかりを見据えた。
(やっ、犯られる・・・!)
ひかりは逃げ出そうと踵を返したら、なんと既に変態が待ち構えていた。
いくら典明が変態とはいえ、不純な思いは、人間に音速の壁を壊させるのだろうか?
せめてここだけは死守しようと胸元と股間を隠しておく。
「くるな!噛み付くぞこの変態!」
さっき一瞬でもときめいてしまった事を心から後悔した。
もしかして自分の株を上げる為に仕込んだのか、と思ったがひかりはそれを直ぐ否定した。
嵌めるつもりなら自分を誘い込む様にするだろうし、そもそも融通の利かない兄が悪企みなど考え付くわけがない。
勉強は出来るくせに真っ直ぐしか歩けない、それがこの変態である。