EP.2 お兄ちゃんは超テッペキ-4
『何をしている』
突然でかい声が響いて、不良達の視線がその主に集まった。
そこには何故か上半身だけ裸の変態が、拡声器を持って仁王立ちしていた。
『もしかして、あれか?一夏のカーニバルか。やめとけ、悪い事は言わない』
不覚にもひかりは、このわざわざ至近距離で拡声器を使う兄の事を頼もしいと思ってしまった。
あまりにタイミングが良かったのでまた妹をストーキングしていたのだろう。
だが今は此れ程心強い味方は他にいない。
『その女は俺のものだ。手を出したら、分かるな?』
突然現れ必要以上に声を大きくさせる典明に、不良達は苛立ちを抑えきれなかった。
「てめえなんなんだいきなり!ぶっ殺すぞオラあ!」
『吹っかけた挙げ句逆ギレとはなかなか素敵な根性だな。さあ来い、そこの不良1』
「数で呼ぶな!この変質者があ!」
一気に距離を詰めて典明の顔面を拳で打ち抜く不良1。
普通なら殴られた方が痛いはずだが、苦悶の声を挙げているのはその不良1だった。
原付に跳ねられても掠り傷すらつかない変態が相手では、仕方のない事なのだ。
「て、てめえ!!」「何しやがんだ!!」
『まだ何もしていないぞ』
全くその通り。
不良1が負傷したのを見て、いきり立った不良2と3が一斉に典明に襲い掛かった。
だが典明は仁王立ちしたまま微動だにしない。
顔や腹、背中、果てはせがれを殴られ蹴られても、そびえ立つ柱の如くびくともしなかった。
「な、なんなんだこいつ・・・化け物か・・・」
数分もしない内に息が上がり、見下ろす典明の顔色の良さに青ざめていく不良1〜3。
これは夢でも現実でもない、変態である。
『鍛え方が足りないな。そうだ、君達に絶望をあげよう。そこの女を見ろ』
呆然と事の成り行きを見ていたひかりは、自分に振られても反応出来なかった。
『その女はかつて俺をKOした事があるミルクタンクだ。まともにやりあえば歯も残らないぞ』
「な、何?!あの女、変質者より強いのか」
「う、うわあ・・・こっち見てるぞ」
「やべえ!い、行くぞ!」
一方的に典明に攻撃していたのに何故か服がボロボロの三馬鹿は、その場から一目散に逃走していった。
よく分からないが、どうやら助かったらしい。
『ひかり、お兄ちゃんと呼びなさい』
「・・・・・・」
『暴力を一切振るわずにお前を守ったお兄ちゃんを褒めなさい。さあ、まずは感謝のベロキスをするのだ』
言われた通りにするつもりは無かったが、助けてもらったのにお礼すらしないというのは良くない。
「ありがとう、変態」
『皆さん聞きましたか今の言葉を。俺の妹がありがとうと言いました、俺に感謝をしています』
「いつまでそんなもん使ってんのよ!」
すると、騒ぎを聞き付けたお巡りさんがやってきたので、取り敢えず兄妹は愛想笑いをした。
でもお巡りさんは許してくれず、交番にて少々事情を聴取される事になってしまった。
ひかりがぶつかったとはいえ不良達の行動も良くはなく、典明自身も手は出さなかった。
なのでお説教された後でなんとか無事に釈放された。