冬の日の出来事。-1
「ねぇ、朋久(ともひさ)」
「んー?」
「サンタクロースって何だろうね」
「あ?」
吐く息が白く色づき、どこもかしこもクリスマスムード一色になり出した頃。いつもよりも賑やかな商店街を歩いている時、ふとそんな疑問が浮かんできた。
「だから、サンタクロースよ」
「いや、聞こえたけどさ」
あたしの突拍子のない質問に、横の男は眉をしかめる。
「サンタはサンタだろ」
「何者なの?」
「クリスマスにプレゼントを運ぶおっさんだろ」
「でも実際サンタなんかいないもん」
「お前、夢がないなぁ」
「じゃあ朋久はサンタがいると思ってんの?」
「よくテレビに出てきてんじゃん」
「あれはあーゆう格好をしたおじさんでしょ」
「あーゆう格好とか言うなよ」
「だってそーじゃん」
「でも夜の繁華街にはあーゆう格好のお姉さんいるよな」
「知らん」
「俺的にはおっさんサンタよりミニスカートのお姉さんサンタに来てほしいなぁ」
「はいはい」
「そしたら逆にプレゼント渡すのにな」
バカバカしい妄想を口に出すな、バカ男め。
「ミニスカートの可愛いお姉さんサンタのそりが突然壊れて俺の部屋の窓に突っ込んで来るとかないかな」
「ない」
サンタという世界レベルの夢にお前の貧相なB級エロマンガみたいな妄想を重ねるなよな。
「あ、ここ」
「ん?」
会話の途中で立ち止まったのは最近オープンした雑貨屋さんの前。店の外観もガラス張りの店内も、街中と同じようにクリスマス一色。
「こーゆう店に一人で入る勇気がなくてさー。つぼみ来てくれて良かったー」
「普通彼氏持ちの女にプレゼント渡すかね」
「いいんだよ。あの二人の仲をこじらせるのが目的なんだから」
「性格悪…」
「何とでも言え」
「ていうか、普通それを姉の前で言うか?」
「それもそうだな」
意気揚々と店に入る朋久の背中をブーツのヒールで思いっきり蹴り飛ばしたかった。
ニヤニヤすんな、バカ。人の気も知らないで。
あたしと朋久は同い年のいとこ。そしてこいつがクリスマスプレゼントを渡そうとしてる相手は一つ年下のあたしの妹だ。
妹には長いこと付き合ってる彼氏がいる。その時点で諦めたらいいのに、こいつは諦めない。自分の方が先に好きになったからというのが理由らしい。
…つまんない理由。
クリスマスソングの流れる女の子だらけの広い店内で一つ一つ商品を手にとっては裏返したり広げたり、真剣に見比べたりする横顔が見ていてとっても痛々しい。
無駄な事をするなよ。
あの二人の間にあんたの入る隙間なんかどこにもないのに。