冬の日の出来事。-4
「結婚」
「は…?」
「結婚するんだって!」
「…」
「今朝つむぎからメールきた。あの二人結婚するの!」
「………あ、そぅ…」
消え入るような声。
怖くて顔が見られない。
空気で朋久の気持ちが伝わってくる。
胸が痛い…
「帰るぞ」
「…」
あたしの横をスッと追い越して、さっきまでのあたしみたいにすたすたと朋久は歩いていく。その後を置いていかれないように追った。
小さい頃からずっと一緒にいたのに、いつの間にか大きくなった身長や広くなる背中、低くなる声にあたしだけが不安を感じていた。
どんどん変わっていく朋久が、遠い人になっちゃう気がして怖かった。
右手にはさっき買ったプレゼントの入った紙袋が虚しく揺れてる。左手は重力に逆らうのを忘れたみたい。ゆらゆら寂しそうに垂れ下がってる。
最後にあの手に触れたのはいつだったかな。
繋ぐのが当たり前だった頃に戻りたい。隣にいるのが当たり前で、それがただのいとこだとしても――
足を速めて朋久の隣に並んで、漂ってるだけの左手を捕まえた。
冷たい手には何の反応もない。でも振り払われなくて、ホッとした。
重なるてのひらから気持ちが流れ込んだらいいのに。そうしたら、これまでのあたしの想いが全部伝えられるのにな。
「…」
「…」
お互い一言も話さないまま、朋久のアパートの近くまで来てしまった。
この手、もう離さなきゃ…
繋いだ手から力を抜くと、
「…っ」
今度は朋久の手があたしの手を捕まえた。
「とも…」
「考えたんだけどさ」
「へ?」
「サンタクロース、いるな」
「…………あ?」
サンタクロース?
いきなり何の話だ。
「サンタクロースは人を操るんだよ」
「はぁあ?」
「だから、クリスマスに誰かにプレゼントをあげたくなるんだ」
「…」
「そう思うと、サンタの正体が両親ってのも説明つくじゃん」
「サンタクロースに操られてたとか?」
「そーゆう事」
そうか、こいつも操られてたのか。おかげで無駄なお金使ってプレゼントなんか買っちゃったのね。
「ごめんね」
「ん?」
「つむぎが結婚する事、もっと早く言ってればそれ…」
買わずに済んだのに。