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冬の日の出来事。
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冬の日の出来事。-2

「つぼみ〜」
「何?早いじゃん、もう決まったの?」
「トイレどこ?」
「…店員に聞けば?」
「えぇ〜、やだよ、緊張すんじゃん」
「何でよ、聞くだけでしょ」
「お前店員さん見てないの?みんな超可愛いんだけど」
「だから?」
「大きい方すると思われたら恥ずかしいだろ」
「知るか!」

朋久は昔からこう。
へたれで一人じゃ何もできなくて、しょうもない事に悩んでいつもあたしを頼ってくる。
そしてあたしは、そんなこいつがほっとけない。

「…しょうがないなぁ、もう」

こうして渋々を装って世話を焼くのが大好きなダメ女。
これだから気づいてもらえないんだ。伝わらないんだ。
あたしがどれだけ朋久を好きかなんて――…


朋久がいない隙に、鞄から携帯を取り出した。
ディスプレイはメールの返信画面のまま、文字は一つも打たれていない。

「はぁ…」

返事をしようと何度も親指を動かすものの、その度に無駄なため息だけが出てきて携帯を閉じる。さっきからその繰り返し。

メールの送信主は妹。
メッセージが届いたのは今朝早くだった。


『慎吾君にプロポーズされたよ!あたし達結婚します!!』


こんな大事な報告をメールで伝えてきたのは、恐らくプロポーズされた直後だったからだろう。普段やたらと絵文字を使う妹がこんなにシンプルなメールを送ってくるなんて、とにかく早くあたしに知らせたかったんだなって分かった。
姉として「おめでとう」「良かったね」ってすぐに伝えなきゃいけないのに、それができないのは、朋久の顔がちらちら浮かんできたからだ。

朋久の為にも早くこの事を教えてあげた方がいいというのも分かってる。だけどそれを聞いた時の朋久の顔を思い浮かべたら、声が出なくなってしまう。


「つぼみ、お待たせ〜」

すっきりしたご様子で、呑気なバカ男がトイレから出てきた。

「…」
「何だよ」
「まさかとは思うけど、あんた服で手ぇ拭いた?」
「うん」
「子供か!」
「洗わないよりいいだろ」
「そーゆう問題じゃない」
「いいじゃん、誰に迷惑かけるわけじゃなし」
「大人でしょ!?もー、寒い中付き合ってやってんだからちゃんとしてよ」

こっちがどれだけ悩んでるかなんて一つも知ろうとしないで、いつも通りマイペースでへらへらしてる朋久につい口調が強くなってしまう。


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