サイレント・イブ-1
工藤あかねの事を僕はいつも見ていた。
少し茶色かかった髪は艶やかで、近くにいると優しい香りがした。
クラスの中にいて、彼女はいつも輝いている。
そんな彼女に僕なんかが相手にされないのは仕方ない事かも知れなかった。
僕は少なくともそう思っていた。
あかねはこんな僕でも他の子と同じように普通に接してくれる。
だけど僕は彼女の[ 特別 ]になりたくていつもそうやって彼女に取り入る隙を伺っていたのかも知れない。
「あかねはいい人がいるもんね。」
「えぇ?あの車の人?」
「やだぁ、言わないでよっ!」
「ねぇ、ちゃんと説明してもらいましょうか?
真っ昼間っから『お前の好きなアレでちゃんとしてくれよな』って、どういう[ アレ ]なんでしょうか?」
「何でもないってばもうっ、こんなとこで言わないでって…」
クリスマスの相談だったようだ。
クラスの女子たちの話をそれとなく僕は聞いてしまったのだ。
あかねには特別な彼がいて、年上で車を持っているという。
こんな事…
聞かなきゃよかったんだ。
つい、あかねのそばにいたくてクラスの女子のお喋りが耳に入り、僕の一番のひとときは暗い森の中に迷い込んだように気持ちが曇ってしまったのだ。
… … … …
クラスのみんなは楽しげにクリスマスの予定を口々に話しあってる。
みんな、映画を観たり夜の遊園地に行ったりとか…
私はいかにも彼氏と過ごしますというような事を言ってて、ただでさえ憂鬱な時期をさらにブルーになる。
今日は一緒に過ごす男にさえ恵まれない子たちから女ばかりのクリスマスパーティーに誘われたけど、私はその同士たちにも入れない悲しみを抱えて生きているんだ…
私は工藤あかね。
悩みと秘密の多い17歳だった。
生まれてこの方クリスマスの思い出といえば、家族でささやかなケーキを食べる事ぐらいだし…
一緒に過ごす彼氏なんてできた事もない。
おまけに家はお寺だし…
先日クラスメイトたちと下校した際、京都の学校から帰省した兄がたまたま車で通りかかった。
あっ兄ちゃんだ…と思ったらいきなり乗り付けて
「お前の好きなアレ…
用意してあるからちゃんとしてくれよな。」
なんて…ヘンな想像されてしまうじゃないの。
お寺の[ アレ ]といえば境内を掃除して落ち葉で焼き芋に決まってるじゃないっ!
つい顔が真っ赤になってしまって、それでも悔しいからいかにも年上の彼氏のように腕をつかんだりしちゃったけど…
私の17歳のクリスマスってホント、お寺の鐘がご〜んっ!って感じだ。
何とかしなければ、往く末はこのままお母さんみたいにどこかのお寺のボーズ頭とお見合い結婚になってしまう。