EP.1 お兄ちゃんは超シスコン-6
「・・・どうしよう・・・」
自分の置かれた状況を理解し、足元が揺らいで、目の奥に涙が溜まっていくのを感じた。
(なんでこんな事になっちゃったんだろう、私はただ絵を描きたかっただけなのに)
居ても立っても居られず、牢獄となった部室の中を慌てて駆け回る。
そうしても何も解決にならないのは分かっていたが、じっとしていたら不安に押し潰されてしまいそうだったのだ。
(誰も助けに来ない・・・)
ふと考えた事が、油に浸した紙に当てた火の如く広がり、ひかりの心を支配した。
涙が溢れ目の前の景色が揺らいでいく。
「うう・・・ハァハァ・・・はぁ、ハァハァ・・・」
集中する為に窓を閉めきっていたので、部室は逃げ場の無くなった熱気が充満していた。
何時間も水分を取らずにいたひかりは体力を消耗し、焦りで止まらなかった足がもつれ、その場に横たわってしまう。
「たす、けて・・・・・・」
ひかりは窓を、外を見つめながら、意識を失った−
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ひかりの奴いったい何処に行っちまったんだ。先に帰ってると思ったのに」
典明は汗を拭きながら駅前のベンチに座っていた。
3階に上がる所までは確認したがその後の足取りが掴めず、周囲の捜索をしていたのだ。
近くのコンビニ、ファミレス、古本屋、路地裏、橋の下、駅の公衆トイレ、衆人観衆ではない死角になる場所・・・
途中からひかりではなく家の無い人が居そうな場所ばかり捜している事に気付き、休憩を取る事にした。
「目ぼしい場所は捜したぞ。後は・・・」
彼の高性能なセンサーは肝心な時に役に立たない。
途方に暮れて学校に戻ると、校舎の一角の明かりを見付けた。
「ん?」
鼻を向けて数回軽く息を吸い込む。
その方角を睨み付けてもう一度鼻で呼吸し、舌なめずりをする。
「あの窓の中・・・ひかりっぽいな」
思い立ったと同時に校門をぶち破り、その明かりを目がけてひた走る典明。
真下まで走り壁に飛び付いて、そのまま攀じ登り始めた。
走るのと全く変わらない速さでヤモリの如く上がっていき、瞬く間に3階に辿り着いた。
「ひかりっ!!」
窓ガラスを蹴破り愛する妹の元へ・・・
「ひかり!しっかりしろひかり!お兄ちゃん見参だぞ!」
力なく横たわる妹を揺さ振るが、閉ざされたままの目は開かない。
「も、もしかして、ひかりは・・・このまま目を覚まさないのか・・・?!」
ふと考えた事が、油に浸した紙に当てた火の如く広がり、典明の心を支配した。
涙が溢れ目の前の景色が揺らいでいく。