EP.1 お兄ちゃんは超シスコン-4
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放課後、着信履歴を確認したら典明の番号がびっしり並んでいた。
時間を見るとどうやら授業中も掛けてきたらしく、ひかりは胃を潰される様な痛みを感じた。
しかし今日はやりたい事があったので、捕まる訳にはいかない。
事前に伝えていようが典明に捕まれば最後、力で抗える相手では無いのだ。
普段の言動がどうあれ、典明は公式戦ではKOのみで勝っているボクシング部のエースだった。
「見つかりませんように」
教室を出て美術室へ向かう。
いつ典明が襲ってくるかと不安に駆られ、ひかりは猫背気味で走っていた。
兄という皮を被った獣は妹の匂いを嗅ぎとれるらしく、何処にいても必ずやってくるのだ。
「ひかり見ぃぃぃっけ!!」
そう、この様に。
「ひっ?!ぎゃあああ来るな!あっちいけこのケダモノ!!」
「何がケダモノだ、まだ何もしていないだろう!!」
一体どうやって見付けたのか
居場所が分かるなら携帯に掛ける必要があるのか
顔も判別出来ない距離なのに臭い気がするのは何故か
様々な疑問が湧いてきたが、今のひかりは考える余裕は持ち合わせていない。
「妹の為なら例え火の中水の中、カモーンひかり、お兄ちゃんとカラオケ行こうぜ」
3階にある美術室まで逃げ切りたかったが、見つかって何秒もしない内に距離を半分近くまで詰められていた。
カラオケは密室、2人きり、つまり、ひかりはかんなぎでは無くなってしまう。
(こっ・・・こんな奴に奪われるなんて・・・嫌・・・!)
「俺のマイクはひかりに貸切だぜ。さあ、存分に握り締めるがいい!」
「嫌ああああああぁ!!!」
−その時、ひかりの眠っていた力が覚醒した。
体を縛っていた見えない枷が一時的に外れて加速していく。
「待て、逃げなくてもいいだろう。ちょっと、待てよ、ひかり・・・おーい」
気のせいか兄の声が小さくなっていく。考える余裕も無くひたすら目的の場所を目指した。
本能に訴える恐怖が彼女の運命を変えたのだ−
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふう・・・」
美術室に入ると同時に内側から鍵を掛けた。
だが、怪力の典明がぶち破らない保証は無いので、ロッカーをドアの前に置いて塞いでしまった。
重かったが何とかひかりでも動かす事が出来た。
入る時に前に押すタイプのドアなので、障害物があると開く事が出来ず、簡単には入れない。