EP.1 お兄ちゃんは超シスコン-3
「待てひかり!まだ話は終わってないぞ!」
追跡しようとした典明を、騒ぎを聞き付けた教師が捕獲した。
「君は・・・3年か?見ない顔だが」
「まだ2年ですけど。ちょっと邪魔しないで下さい、妹に話があるんです」
「騒いでおいてあまり良くない態度だな。職員室に寄り道していくか?」
「離して下さい!何としても妹が不良になるのを阻止しなくては!ちょ、話を聞いて下さい!」
これ以上典明の声を聞きたくなかったので、ひかりは足早に2階にある自分の教室を目指す。
入って机に鞄を置くと、後ろから肘でつんつんと突かれた。
「おはよ。今朝もラブラブじゃん」
思わず言い返そうとしたら今度は両方の耳たぶを一遍に引っ張られてしまう。
「いいよねひかりって。あんなカッコいいお兄ちゃんに愛されてて」
最初に小突いたのは森田花、そこで怯んだひかりに悪戯をしたのが葉川胡桃
2人とも友人であり、同じ美術部の部員でもある。
典明のシスコンぶりは既に友人にも知られていて、こうして何かとからかわれるのは日常茶飯事だった。
だが、記憶の限りでは典明を格好良いなどと思った事は無いので、言われる度にいつも首を傾げている。
「勝手に付きまとってくるだけだから、あんなの」
「羨ましいな。私もあんなイケてる人に追い掛けられたい!」
「お兄ちゃんだから家に帰ればいるもんね。ねえねえひかり、しばらく私と代わってよ、うちお姉ちゃんしかいないからつまんなくて」
好き勝手にまくしたてる友人を無視して、ひかりは席に着いた。
花と胡桃は2人だけで盛り上がり、ホームルームが始まっても小声で続いた。
(あんなのどこがいいんだろ?いっつも鼻息荒くて、酸っぱい臭いがして気持ち悪いのに)
同じ屋根の下で幼少の頃から暮らしてきたひかりには分からなかったが、典明の外見は並以上だった。
学校内に限らず、また女性に限らず男性であっても彼の姿を見た者は魅了されてしまう。
涼しげな眉、その下の瞳は獣の様に鋭いが、笑うと途端に柔らかな曲線に変わり、強さと柔軟さの相反する雰囲気を併せ持つ。
鼻は彫像の様に高く美しく、色の良い唇は笑顔をより引き立たせている。
顔は小振りで手足は長く、モデルの様な体型だった。
血の繋がりとは、時に残酷なのだろうか・・・?
(そんなに格好良いかな。何回見ても、ただの変態にしか見えないけど)