EP.1 お兄ちゃんは超シスコン-2
「一緒に行こう」
「きもっ!近寄んないでよこの変態!」
「照れるなこのツンデレめ。さあ、お兄ちゃんと一緒に学校まで行くぞ」
「1人で行くの!」
再びストーキングしようとする兄から逃れる為、ペダルを踏む足に力を込めた。
追い掛けてくる兄との距離がみるみる離れていき、ひかりはひとまず安心した。
「待つんだひかり。学校が同じなんだし、別々に行く理由がないだろ」
「げっ?!」
急に加速したと思ったら既に並んで走っていた。
慌てて自分も加速するが、いくらペダルを漕いでも兄がくっついて離れない。
・・・体が頑丈な上に足も無駄に速いのだった。
結局今日も兄から逃れる事は出来なかった・・・
彼女の名前は中川ひかり。
殺しても簡単に死ななそうな兄の典明(のりあき)に溺愛されている、不運な16歳の女の子だ。
他に幾つか受験したが、運の悪い事に母親が受けさせたこの学校しか受からなかったのだ。
典明にとっては学年が違うが妹がいつも近くにいるので、天国の様な毎日だろうが・・・・・・
「今日はお前も部活が無いから早く帰れるよな。校門で待ち合わせしよう」
普通の顔を装っているのだろうが鼻息が荒い。
「1人で帰って。私、やらなくちゃいけない事があるから」
「・・・お兄ちゃんよりも大事な事か?」
伸びた鼻の下がゴムの様に戻り急に寂しそうな顔になる典明に、ひかりの胸が痛んだ。
(ちょっと冷たかったかな・・・い、いや、この変態は甘い顔するとつけあがるから駄目!)
いきなり沸き上がってきた変な気持ちを忘れようと声を荒げた。
「あっ当たり前でしょ!それに、あんたなんか私にとってはどうでもいいのよっ!」
「嘘だ、そんなのはまやかしだ。ひかりにとってお兄ちゃんは世界で一番大事な存在だ、違うか?」
「大違い!!どんだけシスコンなのよあんた!!」
「少なくとも俺はそうだぞ!妹が好きだ、ひかりが好きだ!ひかり愛してるぞ!」
突然典明が喚きだした所為で、登校してきた生徒達の視線がひかりと典明に集まる。
いきなり訳の分からない事を叫ぶのもタチが悪いが、さらに人の集まりやすい玄関でやったのが余計に始末に負えなかった。
「ちょっと・・・皆見てるから、やめなよ」
典明は妹に一緒に帰らないと言われたので、興奮してむきになっているのだ。
「何の用事があるっていうんだ?!そうか、遂にピアスか。髪を染めたから次は、親から貰った体に穴を開けるんだな。この不良め!」
「頼むから黙って。ねえお願いだから」
「大体、お前は黒のロングが一番似合うと散々言ったはずだ!なのにひかり、お前は勝手にそんな色に染めて!そんなの馬の体毛と変わらん、馬だ!」
そのうちひかりは馬鹿馬鹿しくなり、1人で顔を真っ赤にして喚く典明を放置して教室へと向かった。