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God's will
【その他 官能小説】

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37頭の蜻蛉-1

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 僕が手にしているバタフライナイフは、ベンチメイド社製の43MCバリソン/ボーイ。116gのずっしりとした重みは、それでもまだ、人の命を奪うにしては軽すぎるかもしれないと僕は思う。切っ先がやや湾曲していて、ハンドル部分のチタニウムには、バタフライナイフ特有の円形のくり貫きが左右六つずつで計十二個並んでいる。

 僕が持っていた鞄の中には、43MCバリソン/ボーイの他にも、システムナイフと代えのブレードが六種類入っている。鋸タイプのブレードが始めて見たときから気に入っていて、それで木村修の耳をそぎ落としてやろうと僕は思っていた。

 それから、家にあった凶器になりそうなものはあらかた持ってきた。爪きり、雑巾で刃を隠した包丁、竹串、キッチン・ナイフ、カッターナイフ。それから、紐とガムテープと、アダルトグッズショップで買った手錠。

 僕は木に固定された木村修の側まで行き、口に巻かれていた紐とガムテープをバタフライナイフで切り、乱暴に一気に剥がす。木村修の唇がガムテープと一緒に何の造作も無く切れ、血がにじむ。ガムテープを剥がすときに傷口がやや広がり、木村修が顔を歪める。彼の固定された両腕に自由は無く、滲んだ血液は拭われることなく、足元にぽたりと落ちる。

「何すんだよ」とようやく発した声は震えていて、僕をにらむ両の瞳には絶望が見て取れる。車の中で見せた陽気で無遠慮な彼の姿はもうそこにはなかった。磔にされた罪人がそこにはいるだけだった。もう僕は彼の人間性などには何の興味もなく、何故ルカがこの男に惹かれたのだろうという疑問もどうでもよかった。

「最初からこうする予定だった」と僕は言った。「先に行ったルカと富良野で遊ぶという話は嘘なんだよ。ルカはここには来ない。俺は最初から木村修という男を殺そうと思ってここへ連れてきた」

「殺す?」木村修は顔をしかめて、聞き返す。どうして俺が殺されなきゃならないんだと顔に書いてある。

「心当たりはない?」僕が聞くと、彼はしばらく口を閉ざして考える。

そして言う。「確かに産まれてから二十五年間の間には恨まれるような事だってしてきたな。でもよ、お前に殺されるような理由は思い浮かばねえな。っていうか、殺されるくらいひどいことなんてしてねーぞ。ちょっとした悪戯くらいのもんでさ」喋っている途中にも彼の唇からは血が滲み、それが口の中に流れ込んで歯を赤く濡らしている。彼は唾と一緒に血液を足元にペッと吐き出す。

「あんたの二十五年間についてのほとんどの出来事は、勿論俺も知らない」と僕は言う。「あんたはこの一年間の間で俺に殺されるべき理由を作ったんだ」

「荒木流歌の事か?」

「そう。ルカの事だよ」

「そういやお前、荒木と仲良かったんだってな。あいつから話は何度か聞いたことあったよ。お前さ、もしかしたら荒木の事が好きだったんじゃねえの? そんで、俺に嫉妬でもしてんじゃねえの? でもそんな事で殺されちゃたまんねえよ。ってか、俺もう荒木とは別れたぜ?」

「知ってる」と僕は言う。

「お前さ、ひょっとして俺と荒木がひどい別れ方をしたから、そんで俺を恨んでるのか?」

「言ってしまえばそういう事になるんだけど、それで全部って訳でもない。そういえばあんたは猫がトンボを食べるって知ってたか?」

 突然何の話だ、というように木村修は首を傾げる。


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