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God's will
【その他 官能小説】

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37頭の蜻蛉-2

「子供の頃、近所に猫がいたんだよ。すげー痩せてて、絶対野良猫でしょっていう感じの猫がさ。俺は多分七歳くらいで、近所の二個上くらいの男の子と一緒に遊んでたんだけど、どういう経緯があってそうなったのかは今では分からんけど、トンボの羽をむしりとって、手のひらに乗せて猫に近づけるんだ。そしたらさ、猫があむんとトンボを食べるんだよ。ちゃんと咀嚼して飲み込むんだよ。トンボなんて美味いわけないとは思うんだけど、その猫はなにせ腹が減ってたんだろうな。俺と近所の男の子は広場にいたトンボを捕まえては羽を千切って、猫に食わせた。全部で三十七頭だよ。随分前のことなんだけど、今でもその数だけは覚えてる。トンボの虐殺だよな。子供って残酷だ。んで、なんで俺が今あんたにこんな話をしてるかって言うと、あんたの今の姿がまるっきりあの日のトンボみたいに見えるんだよ。普段は優雅に宙に浮かんでいるトンボも、羽をもがれてしまえば猫に食われて死ぬだけだ。あんたみたいにB系のイカつい感じの兄ちゃんも、普段イキがっててもさ、こうやって山奥で木にぐるぐる巻きにされてちゃ、どうしようもねえなって話だよ」

「俺を殺すのか?」少し後で、木村修は言う。

「殺すよ。そのためにあんたをここに連れてきたんだ。レンタカーのプレマシーも借りたし、わざわざバタフライナイフまで用意したんだからな」

「どうして俺が殺されなきゃいけねーんだよ!」と、今度は叫ぶ。僕はその声が誰かに聞きつけられでもしたらどうしたものかと一瞬焦り、辺りを見回すが、勿論辺りに人影はない。

「世の中にはさ、理由なく殺される奴だっているんだぜ? その点、あんたにはちゃんと殺されるべき理由がある。だから良いって訳じゃねーけど、まあ、ちょっとは納得できるだろ?」

「理由を言えよ。俺がお前に殺されなきゃならねえ理由を!」

「あんたちょっとうるせーよ。声がでけーよ。瞬殺するぞボケ」と、さっきから調子に乗って叫ぶ木村修に言うと、彼は大きく息を一つ吐き出し沈んだ声で理由を教えろ、と言う。

 僕が彼の質問に答えない最も大きな理由は、僕自身、何故木村修を殺さなければならないのかを、その理由を自分でも正確に認識していないからだった。ここで彼を殺す事に何の意味があるのか、彼を殺す前と、殺した後の世界に一体どのような変化が起こるのか、僕は本当に彼を殺すことを望んでいるのか。全ての事柄は海中のクラゲみたいに、ただ当てもなく漂っているだけだった。それらがいつか収まるべきところに収まり、僕が何を望み、そして何をすればよいのかが明確な形になる予兆もどこにもなかった。僕の暗黒の脳みそは宇宙のように急速に膨張を続け、僕の意識は目的のない無人探査機みたいに暗黒の脳内をぐるぐる回っては、どこの惑星にも辿り着けず、彷徨っていた。




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