私のお父さん-1
「それでね、お父さんが笑ったの。普段全然笑わないで岩みたいな顔してるくせ・・・」
勇志が不意に下唇を尖らせたので、小夜は話すのを止めてしまった。
「また父親の話かよ。あーあつまんねえなー」
勇志は不貞腐れる様にベッドにごろりと転がり、背を向けてしまう。
またやってしまった、と小夜は慌てて勇志の体を揺する。
「彼氏のうちに来てずっとお父さんがああだこうだ・・・お前なんか知らない」
「拗ねないでよ勇志。ごめんって、相手してあげるから」
「知らん。もう寝るぞ俺は」
言った通り、彼女に自分の事ではなく父親の話ばかりされて喜ぶ彼氏はあまりいない。
小夜自身は気をつける様にはしているのだが、気持ちが乗るとつい話したくなるのだった。
「勇志・・・」
返事が無い勇志のほっぺをぷにぷにつつく。
しかし、不貞寝を決め込んでいる勇志は何も反応しなかった。
「起きて」
ほっぺに唇で触れたが、それでも起きる気配が無い。
仕方なくもう一度触れようとしたその時、急に顔が動いた。
「っ?!」
唇に舌を差し込まれ、べろりと歯を舐められてしまう。
「引っ掛かったな、小夜」
驚きはしたが、たかがこれくらいの事で勝ち誇っている。
今度は小夜が下唇を突き出し、ベッドから降りてしまった。
「しかし、お前の父親がエロ漫画家とは知らなかったな」
勇志が起き上がり、呟く。
特に感情が籠もっていない、普段の会話と同じトーンだった。
「それ・・・何回も言ってるね。そんな驚いた?」
「うん。今は慣れたけど。しかし、本当よく俺に言ってくれたな。聞いた時は驚いたけど」
「別に隠さなくてもいいかな、って思ったんだ」
・・・あれからもう1ヶ月か、と小夜は話しながら思い出す。
銀太郎はあまり喋らなかったけれど、娘を大事に思っているのは十分小夜に伝わっていた。
「こないだ勇志を連れてこいって言われたの」
「そりゃ行かないとまずいな。で、いつだよ」
「やめといた方がいいよ。無愛想だし、体大きいし、怖いから」
「誘われてるんだしいいだろ。気に入られてるんなら問題ない」
「そう簡単な事じゃないのよ・・・」
小夜は時計を見て、帰るのはもう少し後にする事にした。
そうしても大丈夫な理由があるから−