ホテルノヒカリ1-1
アタシは美沙…辛うじて二十代にひっかかるOLだ。
独身で彼氏はいない。
趣味らしい趣味もなく取り置きしたTVドラマを見て休日を過ごすグタグタな女だ。
TVドラマと言えばもう終わっちゃったけど「ホタル○ヒカリ」。
あれに出てくる干物女とはまさにアタシの事だった。
休日にジャージ姿でごろごろしているのも。
家に帰ればまず缶ビールってトコも。
ここ数年デートから無縁ってなトコまでそっくりだった。
違いと言えば綾瀬は○かとアタシの容姿くらいだ。
綾瀬○るか…いい味出したけど。
あの美貌で干物女ってのは無理があるな。
かく言うアタシと言えばオ○シスがもし三人トリオであったとして、その三番目のメンバーの中にいても違和感のない容姿だった。
しいて言うならオア○スの中では一番可愛いと言われるくらいが関の山だ。
…とまぁ、そんなアタシ。
まさに真の干物女だった。
そんな私が恋をした。
それこそ…まさにドラマ。
相手はいつも朝、利用しているバス停の近くの交番にいる若いオマワリさん。
立番をしている彼は私がいつもバス停に向かう途中…爽やかに挨拶してくれる。
勿論、道行く人全員に挨拶しているのだが…。
彼の声を聞くだけで私の心臓はドッキュンコ…ドッキュンコと高鳴ってしまうのだ。
こんな事は“ぶちょお〜”ってのがやりたくて会社のイケ面部長に恋をした時以来だ。
まぁ…その恋もドラマの様にはいかず。
その部長は当の昔に結婚してるし。
そんな部長に危ない橋を渡らせる程、私は悪い女でも魅力的な女でもなし。
その恋は始まる事もなく終了したが。
今度は…今度こそは…。
そう思いながら私は冷たい風の吹く朝の道をバス停目指し歩いた。
両手で握りしめたホットの缶コーヒーが冷たい手をヌクヌクと温めている。
いた!今日も彼の当番だ。
若いオマワリさんは寒そうにしながも笑顔を絶やさず…道行く人に挨拶を交わしている。
くぅぅぅ…おまえさん…眩し過ぎるぜ。
私は大きく深呼吸した。
冷たい空気が一気に肺に入り込みむせる様にしながらも私は頑張って彼に近づいた。
「おはようがざいます!」
…と、普段と変わらない爽やかな声。
「おは…おはようございます!!」
私の声は1オクターブ以上あがっていた。
やるぞ!やらなきゃ!
「こ…こ…こ…これ…ど…どうぞ!」
私は典型的なまでにドモリながら手にした缶コーヒーを差し出した。
「そんな…悪いですよ」
彼は優しく微笑みながらも遠慮して手の平をヒラヒラと左右に振っている。
「いえ…あの…当たったから…ピピピピピピ…ピィ!ピィ!みたいな感じで…」
本当はしっかり買ってんだけど…。
私は取り乱しながらも頑張って笑った。
「ピピピピピ…ピィ!ですか…判りました。ありがとうございます」
やった!彼が優しく微笑みながら缶コーヒーを受け取ってくれた!
「あ…ありがとうなって…そんな他人行儀な…」
私は両手を胸の前で組むとはみかみながらモジモジと身体をくねらせた。
「いやぁぁ…温かくて助かります」
彼は両手で缶コーヒーを握りながらあくまでも爽やかだ。
「やだ…もう…こんな物でよければ…幾らでも」
顔が熱い…きっと真っ赤になってるに違いない。
私はホワホワしながら夢心地だった。
今度は作りたてスープを持って来よう。
“よかったら…交番の中で一緒に飲みませんか?”なんて誘われちゃったりしてぇ。
「あの〜バス…来ましたよ」
ニタニタと笑っていた私は彼の言葉で現実に引き戻された。