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God's will
【その他 官能小説】

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ふきつないちにち-5

 人間というのは、失ってから大切なものに気づくっていうことが往々にしてある。例えば、今みたいに。でも今に至るにはそれなりのプロセスがあった。ルカとは一緒に眠った事だってあったんだ。俺は大バカヤロウだ、と僕は心の中で自分自身を罵倒する。何故こうなるまえにルカを手に入れなかったんだ。自分の正直な思いを伝えて、そうしたらひょっとしたら今頃ルカの隣にいるのは木村修ではなくて僕だったかもしれないのに。

 でも、僕は僕だから僕の気持ちについては他の誰よりも良く知っている。だから、僕は僕がそうしなかった理由についても知っている。僕は怖かったのだ。そもそもの初めから、僕は人付き合いが苦手だったし、そのせいで僕を取り巻く人間は男女問わずそんなに多くはない。そんな中でせっかく出来た友人達との関係性が失われるのが怖かったのだ。僕がルカに思いを伝えることで、ひょっとしたら僕と彼女との関係性が損なわれてしまったりするのではないか。いや、そうならなかったとしても、僕と彼女の間に何かしら致命的な溝のようなものが出来てしまうのではないかと、僕はそれを恐れたのだった。だから、僕はルカに好きだとか大好きだとかずっと一緒にいてくれだとか、そんな事言えなかったのだ。だって、そうだろう? どう考えても僕とルカの関係はこれ以上ないってくらいに上手くいっているように思えた。だったら一体何が駄目だったのだろう。一体何が足りなかったのだろう。それはきっと、約束だ。僕はルカと約束を交わすべきだったのだ。言い換えれば、どうあってもルカの側にいたければ、短気大学時代の同級生たちが言っていたように恋人になってしまうべきだったのだ。そうでなければ、結婚でもすればよかった。

 と、そこまで考えて、本当に手遅れなのか? と僕は思った。時計を見ると、夜中の二時を回っていた。一瞬躊躇するが、僕はそれを振り切って携帯電話を手に取る。そして、ルカに電話をかける。手が汗ばむ。僕は頭を必死に回転させる。ルカが出たらなんて言えばいい? 考える。ルカが出る。

「もしもし?」とちょっと寝ぼけたルカの声。心臓がどきりとする。聞きなれたルカの声なのに、相手のことを意識してしまうと、こんなにも声の響きは変わるものなのかと僕は驚く。

「寝てた?」

「うん。ちょっと待ってね」受話器の向こうで、布団から抜け出しているのか、ごそごそと音がする。それから、ドアの閉まる音。「いいよ。大丈夫。こんな時間にどしたの?」

「もしかして、彼氏と一緒だった?」

「えーっ。・・・うん。一緒だった。もう寝てたけど」

「そっか。いや、なんでもない。ごめん。もういいよ」

「ふぅん?」

「いや、もう大丈夫。起きてたらちょっと話したかっただけだから。それじゃ。おやすみ」

 僕はルカのおやすみを待たずに電話を切る。ベッドにもぐりこみ、目を閉じる。形のない幻滅が僕の心を少しずつ破壊していく。胃痙攣にも似た突発的な痛みがやってきて、それは抗コリン剤を服用したところで、どうしようもない問題だから、僕はベッドの中で孤独な胎児のように丸くなる。カーテンの向こう側がうっすらと明るくなり始め、僕はほんの少しだけ眠ることが出来る。


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