娘の告白-2
「・・・座ってもいい?」
「あ、ああ。いいぞ」
だがここで部屋を出たら、多分この先ずっと父親とは向き合わないだろう。
小夜は、せっかく沸き上がった気持ちを無駄にしたくなかった。
自分自身に楔を打ち込む様に、銀太郎の隣にお尻を下ろす。
銀太郎は向かい合う小夜の目に、いつもとは違う静かな、しかし確かな気迫の様なものを垣間見た。
「さっきね、怜から聞いたんだけど・・・怜が、自分から、お父さんの仕事を手伝う事に決めた、って・・・言ってたんだ」
既に知っていたが、銀太郎にとっては小夜から聞くこと自体に意味があった。
やはり小夜は今まで知らなかったか、と思うのだった。
「あと、次の仕事、私に協力して欲しいって・・・」
「いや、それは出来ない。お前まで俺の負担になる必要は無い」
「ま、待って、私もさっき聞いたばっかりだから、まだ・・・その、決められなくて、ごめん」
下唇を噛んでじっと銀太郎を見つめる小夜。
その目からたった今感じた気迫が零れていく様な気がした。
「小夜、お前に会わせたい人がいる」
娘が部屋から出てしまう。また自分に背を向けてしまう−
そう思った瞬間、銀太郎はアルバムを手に取り、開いていた。
「え・・・?!この人って、お、お母さん・・・?」
「そっくりだろ。まあ、今の小夜より一回りは年上だがな」
一緒に写真を見ながら、銀太郎は小夜に自分と妻の、朝美の思い出を語り掛けた。
一遍に言うのではなく、小夜が聞きやすい様に断片的に聞かせる。
「びっくりしたよ、ああいう雑誌に女性の編集がいるなんて。うっかり口に出したら怒られた」
「なんて言われたの」
「最初は笑ってたが、いきなり真顔で額を叩かれた。思えばあれが怖くて、うまく話せなかったのかな」
「そうだったの?結婚までしたのに」
自分なりの冗談を交えたが小夜には通じず、苦笑いする。
「すまんな、今まであまり話せなくて」
「・・・だ、大丈夫だよ、気にしてない、から」
「お前に母さんを、朝美を重ねてしまうんだ。だから辛くて・・・避けてしまったんだ。今まで、すまなかった」
銀太郎の言葉に、小夜は鼻の奥が熱くなるのを感じた。
(お姉ちゃんとお父さんは似てるんだよ。どっちも、本音をなかなか言えないから)
絶対に涙など見せられない。
少し前までの自分ならそう思ってた、けど・・・今は違う。