涙の理由-2
まだ僕らが北海道滝川市にいた頃、サークルの飲み会の帰り道、ルカが唐突に「私の家に来ないかな?」と言い出した。仲間内で集まっているときの明るい、陽気なルカとは違う、どことなく甘えるような声だった。「いいよ」と僕は応えた。どうせ家に帰っても寝るだけだし。
部屋に入ると、ルカはいつもどおりに戻る。テレビをつけ、北海道のローカル番組を見ながら、おもしくねーとか言ったりしている。僕は勝手に冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを飲む。あれ。さっき感じた違和感は僕の勘違いだったのかな、と思う。
深夜一時を回ったところで、「そろそろ寝よっかな」とルカが言い出したので、じゃあ帰るわと言うと、帰らないでと言ってルカは僕を驚かす。
「一緒に寝てくれない?」ぼそぼそと恥ずかしそうにルカは言う。
「なんだそりゃ」
「いや、無理ならいいんだけどさ」
「きゃー犯されるー」と僕がおどけてみせると、「そんなんじゃないってば!」とルカはいつもの調子で言う。そんなんじゃないのか。ちょっと残念だ。
「じゃあ、どーしたん?」僕も今度は真剣な顔で訊く。理由なくルカは僕に一緒に寝て欲しいなんて言わないだろう。
「宮下勉君っていう名前聞いたことある?」
「ないよ」と僕は即答する。「その人、有名なの?」
「ある意味では」とルカは複雑そうな表情をする。「ごめん。やっぱり、無理だよね。ごめんね。無理言って」と、半分泣きそうになりながらやっぱり泊まらなくても良いよ的な事を言い出されても、うん。じゃあバイバイなんてなるはずがない。
「ふぅぅむ」とわざとらしく唸る僕は、おそらく宮下勉君に関わる何かがルカの心をとても落ち込ませていて、ルカは今精神不安定な状態に陥っているのだろうと推察する。さっきテレビを見ながらぶうぶう言っていたのだって、いつもどおりを演じるいつもどおりではないルカの姿だったのかもしれない。僕には完全にいつも通りのルカに見えたけれど。
「眠い。寝ようぜ」と言って僕は立ち上がり、隣にある寝室へ向かう。「眠すぎて僕帰れな〜い」とまでわざとらしく言う。
「ありがとう」
「いいって」