新しい始まり-1
◇新しい始まり
Side/S
学校へ向かう桜並木は、満開の桜の花びらが風に舞って雪が降っているように見える。
真新しい制服に袖を通して、軽い足取りで新入生達がぞくぞくと学校に入ってきた。
僕は三階にある化学実験室の講師室の窓から初々しいその姿を眺める。
一人の少年が友達と親しげに話しているのを微笑ましく見ていると、コンコンとドアがノックされて男性教師が顔を覗かせた。
「おはようございます。そろそろ準備をお願いしますね」
「わかりました」
「初めての担任ですね」
「はい。緊張します」
「へー。相良先生でも緊張するんですね」
「さすがに責任が大きいですからね」
担任を予定していた女教師が突然辞めてしまったため、クラスを受け持つことになった。
同じく担任を持つこととなったその男性教師と廊下を歩きながら話す。
「そういえば結城先生はどうしたんでしょうかね?」
「ああ。なんか心の病気だとか」
「教師生活に疲れてしまったんでしょうかね」
原因を作ったのは僕だが、どうやら彼女にはその手の嗜好は受け付けなかったようだ。
「では今年一年頑張りましょう」
彼はそういって自分の受け持つクラスに入っていった。
教室の扉の前で大きく深呼吸をする。
中からはざわざわとまだ幼さの残る若い声が聞こえてくる。
僕は扉を開き中に入ると静寂が教室を包み込んだ。
一斉の僕を見るたくさんの顔。
不安そうな顔、わくわくした顔、緊張した顔、そして可愛いあの子の驚いた顔。
僕は黒板に自分を名前を大きく書いた。
まるで学園ドラマみたいで珍しく心が浮き立つ。
「はじめまして。今日からこのクラスの担任になりました相良蒼介です。どうぞよろしくお願いします」
教壇に立ってお辞儀をすると色々なトーンの声色で挨拶が返ってきた。
ただあの子だけは顔を真っ赤にして僕への視線を外さない。
目が少し潤んでいるようにも見える。
「では出席と自己紹介を兼ねて、名前を呼ばれた人は立ち上がって一言言ってくださいね」
突然の自己紹介タイムに入り一気に教室が騒がしくなった。
一人一人名前を確認しながら呼ぶと生徒は立ち上がり、恥ずかしそうに簡単に済ませるものもいれば、おちゃらけて冗談を言うものもいた。
そして、ついにあの子の名前を呼ぶ。