ルカ-2
そんな彼女にどんな風に接すればいいか分からない僕は余り好意的な反応をしていなかっただろうし、せっかく話しかけてくるのだから、気の利いた台詞の一つでも言いたいのは山々だが、それは結局無理な話であり、いつかはこんなに僕の事を構わなくなるだろうと思っていたのだが、それは違っていた。そうこうする内に日々は流れ、僕はいつしか彼女に対してはバリアを張らなくなり、少しは上手く喋れるようになる。
そうしてルカは僕が短期大学に入学してからの初めての友人となった。そして、僕の二年間の短期大学生活において、初めての友人は同時に唯一の友人だったとも言えた。
入学からあっという間に半年が過ぎた。半年も経てば、大体ほとんどの連中はグループを形成し、学校生活においてのポジションを悟る。生活も徐々に軌道に乗り、生活リズムを各々に作り出す。ある者はアルバイトをはじめる。またある者は恋人をつくる。お気に入りのラーメン屋を開拓する。
そんな時期になっても、僕はどのグループにも属さず、といえば格好はいいが、どのグループからもお呼びがかからず、相変わらずの一人ぼっちで、唯一の友人はルカだけという状況だった。自分のポジションも上手く認識できなければ、新しく何かを始めようという気も起きなかった。自分だけが取り残されてしまったような気がした。僕は単位をとるために一人で登校し、特定の誰かと一緒に座るでもなく空いている席に一人ポツリと座り退屈な授業を聞いた。古事記の話や、神道の理念なんかを。そして気が向いたときには夕方近くになるとグラウンドでサッカーボールを蹴る。
「ルカ、腹減った」サークルを終えると、僕はグラウンドの跡形付けを手伝いながら言う。カラーコーンを重ねてそれを両手で運ぶ。
「じゃあ、ご飯でも食べに行こっか?」
「今俺金ないんだよね」
「じゃあ駄目じゃん」ルカはがくっとわざとらしく頭を下げる。
「なんか作ってよ」
「何がいい?」
「野菜炒めかオムライス」
「じゃあ、オムライスで」
「うん。いいよ。これからご飯炊くから、ちょっと時間かかるけど」にっこり笑うルカの笑顔は可愛い。
ルカは贔屓目に見てもそんなに美人な訳ではない。街中を歩いていても男の目を引き付けるというタイプでもないし、決してスタイルも良い訳ではない。でも彼女にはどこか人の心をひきつける魅力があった。
僕が思うに、恐らくルカに好意を寄せる男のほとんどは、その容姿ではなく、彼女特有の言葉には出来ない独特の魅力に惹かれるのだろうと思う。そこには計算高さや女性特有の小悪魔的な要素があるのではない。それとは真逆の、純度の高い自然体というのが彼女の最大の魅力なのだ。化粧は控えめで、服装は至ってシンプル。例えるならば、派手に飾られた本格サラダではなく、オーガニックなベジタブル的な感じ。