父と妹の想い-4
「これ食っていいぞ。ちゃんと怜と分けるんだぞ」
「いらない。ご飯前だし」
「そうか、なら後でいい」
それっきり会話が止まってしまった。下駄を脱いで家に上がろうとする銀太郎に何も言えない。
(なんで、ありがとうって言えないの。買ってきてくれたのに・・・)
余計な事をしなくていい。
銀太郎に自分がそう感じてると思われている、と考えると胸が締め付けられそうだった。
怜はちゃんとありがとうって言えるのに、自分は憎まれ口しか言えない・・・
不器用な銀太郎がたまに見せる優しさにも、小夜は嬉しいと伝えられなかった。
「ただいま〜!わっ?!お姉ちゃんいたんだ、びっくりした」
直ぐに怜も帰ってきた。
戸を大きく開いたり、玄関を上がったりする音が妙に耳に残る。
「おう、怜。お帰り」
「それケーキ?!丁度食べたかったんだよね!ありがとうお父さん!」
銀太郎から奪う様に箱を受け取ると、さっさと居間の方に行ってしまった。
そんな食い意地の張った妹を父親はやれやれ、といった様子で見ている。
小夜は父親の様子がいつもと違う事に気付いていた。
用事は終わったのかと思ったが、この場を去ろうとしない。さっきも普段買わないお菓子を買ってきて、下駄を履いていた。
長年家族として暮らしてきたのだから、何か話したい事があってそれで落ち着きが無いのだろうと、小夜は薄々感じていたのだ。
話すなら早くしてほしいと思っていると、怜が居間から戻ってきた。
「お姉ちゃん、後で話があるんだけどいい?」
「ここで話してよ。どうせめんどくさい事でしょ」
「・・・二人じゃないとダメなの。待ってるから」
怜が急に真剣な声になったので、小夜は思わず身構えた。
銀太郎と一緒に自分に何か言うのか、或いは別に話したい事があるのかは分からない。
どちらにせよ今夜は楽しい出来事が待っている訳では無さそうだ。
小夜の胸の中に居座っていた重い塊が膨らんでいく・・・
「おい小夜、どこに行くんだ。怜が話があるって言ってたろ」
銀太郎が呼び止めるのも聞かないふりをして、戸を閉めた。
逃げ出すつもりは無かったのに、気持ちとは裏腹に家から遠ざかっていく・・・
「お姉ちゃん待ってよ!」
何も言わず出ていこうとする姉を怜が追い掛けてきた。
どんな理由か知らないが、勝手に外に行こうとする事に、憤りを顕にする。