悔し涙が身に染みる……。-24
「ねぇねぇ、志保先輩は? 奈々子も達郎先輩も応えたんだし、教えてくれなきゃずるいです!」
「そんなこと……」
勝手に口にしておきながら強要する奈々子に唖然とする。達郎は申し訳なさそうに頭を掻いている。
「どうでもいいじゃないですか……」
「へぇ、否定しないってことはするんだ。想像できないな〜」
濁したはずが、断定される。確かに彼女も一人自分を慰めることがある。
「いや、だって、普通そういうことしませんか?」
ここで怒っても大人気ないと、愛想笑いで返す志保。
「でも、志保ちゃんみたいな可愛い子が一人でマンコ弄ってるの想像すると、やっぱ興奮するなあ〜」
三戸部は嬉しそうに顔を綻ばせるが、何故彼らが志保の名前を知っているのだろうか?
「ああ〜、あたしだってしてるのに〜! 奈々子は可愛くないっていうんですか〜」
志保が反論しようとしたところを奈々子が見当はずれな怒りをあらわにする。
「違うよ。そういういみじゃないよ。だって、ほら、志保ちゃんみたいな子だよ? オナニーとかしそうにないじゃん」
「ふうん……。でもそれはわかるかも……。志保先輩がオナニーしてるなんて、奈々子も思わないな〜」
「もういいじゃないですか〜」
あくまで笑顔のまま、グラスを煽る。
「おお〜、いい飲みっぷりだね〜、ささ、もう一杯」
空いたと同時に注がれるお酒。美味しいものではあるが、度数も高いものであり、アルコールに強い志保でもかなりきつかった。
「もう、いいですよ……」
「まぁまぁ……、このお酒、結構いいやつだし、そうそう飲めないよ。だからさ、もう少し……」
なみなみと注がれるお酒。いくら良いものであったとしても、そうそう飲めるものではない。だが、セクハラじみた話をされるよりはマシと、それに応える。
「んごく、んごく……はぁ……」
半分まで飲んだところでグラスを置く。周りを見ると、景色が歪んでおり、あまり良い状況ともいえない。
「すみません、なんか酔っちゃったみたいで……、私もあっちの部屋に行って良いですか?」
「ん〜、でも志保ちゃん、歩ける? そっちの部屋で休めば?」
意外にも中座が許され、ぱっと顔を明るくさせる志保。ほとんど期待していなかったが、よろよろと立ち上がり、そのまま隣の部屋のふすまを開く。
「すみません、失礼しますね……」
今は後輩のことよりもまず自分のこと。彼女とて、そこまで責任を持つ理由はないのだから……。
**
「ねぇ先輩、なんか奈々子、喉乾いたな〜」
「ん? じゃあなんかソフトドリンクでも……」
「ごめん、切らしてるんだ……」
志保が去った後、奈々子が酔い覚ましにお酒以外のものを飲みたいと言い出す。それなら水でも飲めばいいのではと達郎は思ったが、さすがに口には出さない。
ただ、このお酒、やたらと度数が高く、それほど強くない達郎にはきついものであった。
「そうだな、何か買ってきますか?」
酔い覚ましなら少し歩こうと、達郎は立ち上がる。ややふらついたが、冷たい風に当たってくれば少しはマシになるだろうと考える。
「おう、すまんな。じゃあ、これで……」
千円札を渡されたので辞退しようとしたが、無理やり握らされて送り出される。
達郎はそれほど不審には思わず、外へと出た。
背後ではがちゃりと音がしたが、気付くはずもなく……。
**
視界がぐるぐる回る。
頭はそれほど痛くない。
気分も悪くない。
身体が熱く、動くのがだるい。
耳もとで何かがキーンと飛んでいる。
ぎしぎしと音がするが、それは隣の部屋……。