#01 邂逅-6
岐島は(余計なお世話だが)マッチに火をつけ、左手を風防にすると私に近付けた。
私は咥えたタバコの先端をマッチのオレンジ色の炎で焼く。
タバコが煙を吐きだしたのと同時に岐島はマッチを振って、消火した。
――その一連の動作が、妙に慣れたものだったのは、気にしないことにする。黒髭危機一髪みたいなもんだ。無用な突っ込みは危険――。
私は肺に煙を送り、満たすと吐き出す。
紫煙が夏の蒸し暑い大気の中へと溶けていった。
そんなルーチンワークを何度か繰り返す。
「〜〜っ、ぷはぁ〜」
「……美味いかい?」
「ん?ああ、美味いね。たまらねぇよ」
「ふぅん……メンソールの長い煙草か。女の子らしいね。それはそうと俺にも一本、貰えないか?点火賃の代わりに、ね」
「点火賃って……あ、あれはてめぇが勝手にやったんだろうがっ?つーか、岐島も……吸うのか?」
「いいや。昔、知人に勧められて三ヶ月ほど吸っていたことはあったけどね。どうも、俺には合わなかったようだと思って辞めたんだ。でも、アレから二年――嗜好が変わったかもしれない」
「…………。ほれ……」
「ありがとう」
岐島は第一印象を裏切り、(やはり、愛想はなかったが)饒舌だった。そして、意外でもあった。
一見、暗いガリ勉君だとばっかし思っていたが、中学時代は案外、やんちゃだったのかもしれない。
そんなことを思いながらも(腑に落ちないとこもあったが)私のタバコを一本、くれてやった。
小さく礼を言うとさっきと同じ動作で、今度は自身の咥えたタバコに火を点ける岐島。
――やっぱ、こなれていやがる。
「〜〜っ、ふぅ――。うん、やっぱり俺には合わないようだな」
「そうかよ」
「まぁ、コレは最後までいただくけどね」
「あっそ。――っていうか、なんで岐島はサボってんの?」
私は本当だったら、最初にするべき質問を遅くも、した。
優等生がサボりってのは、どうも違う気がしたのだ。