#01 邂逅-17
「……なんでしょう、お嬢様?それと、私の名前は入道皐月(ニュウドウ サツキ)。空は符号のようなものですので、お呼びの際は本名を――」
――入道、皐月?
ああ……。入道雲と五月雨で『空』か。
上手い――か?
「ん、あ……だったら、私は皐月さんって呼ぶからさ、その言葉使いとお嬢様は止めてくれ。見た感じ、年上だろ?」
再び、黒スーツの女改め皐月さんがコチラへと目を向けた。
やはり、すぐに前方へと戻すと、
「――――あら?そう?いや〜、助かる。実は鷺ノ宮さんの前以外でこのテンションを維持すんのってのも結構、辛くてさぁ〜」
打って変わって、フレンドリーかつ饒舌に話し始めた。
私はシートベルトがなければ、そして、新喜劇だったならば、間違いなくずっこけていただろう。
――な、なんだ、この女?
そんな私の感想も忖度せずに皐月さんは続ける。
「で、なになに?萌ちゃんったら〜、やんちゃな盛りだけど、油断しちゃダメよ?可愛いんだからさ。おまけに家がお金持ちなんて、ぶっちゃけ、ちょームカつく〜!」
口では『ムカつく』といいながらもソコからは嫉みの感情は微塵も感じられなかった。昔から、嫉妬の対象にはなりやすかったから、私はなんとなくそういうのが分かってしまうのだ。
皐月さんはケラケラと笑って――大丈夫か?躁病なのかと疑いたくなる――、ハイテンションに言った。
「しかも、アレ?美少女で、お嬢様のくせに萌ちゃんって、タラシ?」
「タ、タラシっ?」
「だって、高崎のお坊ちゃまん――あ、この愛称は秘密ね?――にヤられそうになってたしぃ」
「あれはっ、あっちが無理矢理――」
「ま、そうだけど。んじゃ、仙ちゃんは?」
「せん、ちゃん?」
「まったまた、惚けちゃって〜。ほら、『山』よ、『山』!同じクラスでしょ?確か……」
「はぁ?…………って、おい!まさか、あれって――岐島だったのかよ!?」
私は脳内で『山』や『セン』が付くクラスメイトの名を思い出そうとし、そして、一瞬で思い至った。
それこそ、今日、ファーストコンタクトを行ったばかりの岐島仙山がピッタシじゃないか!