葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件〜真相〜-3
「目張りです」
「目張り?」
「本来あるはずのない目張りが扉の間にされていた。犯人は平木さんに扉の間に何か落ちていると彼に言い、彼が調べたようとして顔を扉の隙間から出したとき、挟んだ……」
「まさかそんなこと……。彼は一幕のときは私と一緒に舞台挨拶をしていたのよ? その後はずっとお客さんもいたし、休憩のときは皆で仕事してて……いったい何時ここでそんな大それたことが出来たっていうの?」
「第二幕が始まり、真帆さんにスポットライトが当たったときです」
「はっ、それこそ無茶でしょ? 皆がステージを見てるのよ? その目を盗んで出来ると本当に思うの? ばかばかしい。やっぱり子供ね……、聞いて損したわ!」
再び激昂する由真だが、それはどこか作られた感がある。彼女は無理やり話を終えようと踵を返す。
「誰もすき好んで主演が出たのに舞台袖なんか見ませんよ。たとえ見たとしても、ものの数分です。何が起こったなんて誰も気にしません。せいぜいスタッフが何か作業している程度にしか思いませんよ」
だが真琴は追いすがり、そして追い詰める。
「……そう。なら仮にそうだとして、その死体はどこに? 鳥羽さんがここに待機していたのよ? 彼に気付かれたらどうするの? まさか控え室にでも隠したっていうの? 誰が来るかもわからないのに? それともまた通路? 死体なら立って壁にへばりつくなんてできないし、舞台を見ていたなんていい訳出来ないわよね?」
「いえ、死体を隠したのは扉の裏です」
「扉? 扉で殺して扉に隠したの?」
「ええ。隠したのは小さい扉です。開くとスペースができるんです。平木さんの死体を隠ぐらいの隙間がね」
「でも、気付かれたら……そうね。本番中にわざわざ隅っこを注視する人はいないわね……」
「はい。そして、犯人は鳥羽さんが一旦上手へと移動したのを見計らい、その間に死体を事故に見せかけようとした。しかし、鳥羽さんが思いの他早く戻って来そうだったので、犯人は先ほどの行動を取った」
「そして鳥羽君が来たとき、都合よく落下したと……」
「ええ、多分この犯人はそこまで計画的に行動していたわけじゃないと思います」
「ふうん。君はそう思うんだ。でも、それは君の推測でしょ? どうして本番中にドアが開いていたと思うの?」
「石川さんが言ってたんです。ドアが開いてるから音がおかしいんじゃないかって……。僕、一度舞台から見ました。けど、その時はわかりませんでした。ただ、真帆さんのファンが盗撮をしていて、その時たまたま澪の……いえ、下手にカメラが向くことがあって、しっかりと通路の明かりまで映っていたんです……」
余計なことを思い出してしまうも、邪念を振り払って続ける。
「……なるほど。そうなんだ……」
由真も反論すべく言葉が無く、口ごもる。
「……でも、そんなことが出来る人なんて居るの?」
「はい」
「……それは?」
「貴女です」
確信に満ちた真琴の声に、由真自身予測していたのかそれほど驚きもない。
「……私はその時、控え室で打ち合わせをしていたわ。変なことができると思う?」
「いえ、そのときの控え室は貴女一人です」
「どうして? 鳥羽さんも私が誰かと話しているところを聞いているはずよ? まさか私が男の人の声も出していたとでもいうの?」
「では誰と話していたんですか?」
「えと、それは……ごめん、よく思い出せないわ……。今日はたくさんの人と打ち合わせなり挨拶したし……」
「テープですよね?」
「……」
「鳥羽さんが聞いたのは貴女とテープ、赤坂さんのウォークマンを再生して会話のフリをしたんです。巻き戻しをされていなかったから気付きました」
「ふうん。なるほどね……それなら確かにそうかもしれないわ……。でも、私が犯人だって言うには証拠みたいなものとかあるの?」
「はい、それは貴女が今ももっています」
「私が?」
行動のおおよそを看破された由真だが、彼の指摘には首を傾げる。そして手から垂れる雑巾を見つめ、「あっ」と小さく呟く。