葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-4
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連休初めの土曜日の朝、澪は眠い目を擦りながら相模大野駅へ向かっていた。目的地は定期が使える範囲らしく、交通費的には問題なかったのが救いだ。
ただ、せっかくの休日、ボランティアに無理やり借り出されるのは納得いかない。とはいえ、メールを送ってしまったのは他ならぬ澪。その責任からしぶしぶ参加することにしたが、もし可能なら梓に代わってもらいたくもあった。
「みぃおぉ、まってよ〜」
背後からは諸悪の権化の声。真琴の顔を見ては嫌味の一つも言いたくなるのだが、きっと彼はニコニコ笑って聞き流すだろう。あの笑顔でいられると、どうも調子が狂う。それがこれまでの彼女と彼の関係なのだ。
「一緒に行こうよ。待っててくれてもいいのに……」
「い・や・よ。こんなところ誰かに見られたら誤解されちゃうじゃない」
「誤解?」
演技なのか本当にわからないのか、真琴は首を傾げる。
澪にしてみれば暫定彼氏などという真琴と一緒に居るところをクラスの面々に見られるのは誤解の基でしかない。これ以上甘酸っぱい青春から遠のいてしまうのはごめんと、せめて駅までは別々に行くことにしていたのだ。
「もう、あたしはこぶの面倒なんてみたくないって言ってるの」
そう言って真琴を待たずに澪は先を行く。
真琴も負けじと彼女の隣を歩く。お互い競うように歩調を速めるが、道行く人々からみるとなかなか異様な風景。
「僕はこぶじゃないよ」
「はいはい、そうでちゅね〜」
赤ん坊をあやすように満面の笑顔でそう言うと、さすがの真琴も顔をしかめる。
「もう、澪ったら、すぐ子供扱いする」
最近、本当に最近なのだが、真琴は澪に不機嫌を返すときがある。
昔、といっても一年前までは常に笑顔で上機嫌な印象しかない彼の心にも変化が出てきたのだろうと、澪は感じていた。
「あ、怒った?」
「怒ってないよ」
「嘘、怒ってる。真琴もたまには怒るのね〜」
「もう、澪ったら……」
「ふふん、真琴も怒るんだ〜」
――反抗期かしら? お姉さん、年頃の男の子には困っちゃうわ……。
幼馴染を上手くからかうことが出来たことに、澪は上機嫌に口笛を吹いた……。