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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-31

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 非常口のドアが開き、相模原高校の臙脂色の制服姿の女子が走り出るのが見えた。
「お、真帆ちゃんだ! 行くぞ、お前ら!」
 待ってましたとばかりにファンというべきかストーカー達は、重そうな肩掛け鞄を彼女の後姿に向けながら追いかける。
 男の足と女の足。体力、持久力ならやや女子に分が悪い。ファンと彼女の差はだんだんと縮まりつつある。
 行く先にも特にバスや車が控えているわけではなく、このままでは追いつかれる……と思いきや、ギアを変えたかのようにスピードアップしだす彼女。
 距離が離れ始めたことに焦りを感じたファンも負けじと腕を振りつつスピードアップ。
 だが、また距離が縮まったところで、さらにスピードアップ。
「まて、まってくれ……、逃げなくても、にげなくてもいいじゃないか〜」
 徐々に脱落者が出始めた頃、肩掛け鞄の男も荒い息をしながらしつこく追いすがっていた。
 そして……、
「うわっと! ぐわぁ!」
 道路と道路の段差で足が上がりきらず、肩掛け鞄の男は前のめりに倒れる。すると何かが鞄から飛び出し、地面を滑る。
 男は顔をしこたま打ちつけたらしくしばらく唸っていたが、鞄から飛び出したものに気付いて辺りを見る。しかし既に時遅く、彼女がそれを拾い上げ……。
「やっぱり盗撮してた!」
 知らない女の子の憤る声。見ると臙脂色の制服の彼女はボーイッシュな黒髪であり、真帆とは似つかない爽やかな顔立ちだった。
「君、誰……?」
 男のそんな疑問の声も、踵を返す彼女には届かないわけで……。

**

「お疲れ〜」
 駐車場の物陰に隠れていた真帆に梓に真琴。上手く巻いて帰ってきたのだろうと労うが、澪は深刻な顔で欅ホールへ戻る。
「ちょっと、どこ行くの澪?」
「それどころじゃないわ。皆も来てよ!」
 先ほどから澪が小脇何かを抱えているが、どうやらビデオカメラの様子。
「澪、それって……」
「ビデオよビデオ!」
「もう悔しいったらありゃしないわ! あたしもされたんだから!」
「え!?」
 憤懣やるかたなしといった様子の澪は非常階段を一段飛ばしで駆け上がると、控え室へと入る。
 その様子を石塚は目をしばたかせながら見ていたが、続く梓達を見送る。

**

「真琴、鍵閉めて、鍵!」
「あ、うん」
 後ろ手で鍵を掛ける真琴。そこにはまださめざめとした様子の久美が居たが、澪はとりあえずビデオの再生する。
「これどうしたの?」
 画面を凝視する澪に梓が尋ねると、澪は「見てて」とだけ言う。
 しばらく暗い画面が続いたが、続いて拍手が起こり……。
「あ、これって……」
 そこには今日の舞台の様子が映し出されていた。
「本当に盗撮? うわ、さすがにこれは犯罪でしょ?」
「今日のコンサートっていうか、撮影は常に禁止なんだけど……」
 交々な感想がかわされる中、問題のシーンへと進む。
 澪と梓の低い声が舞台の台詞に混ざって聞こえたあと、屈んで前を通る梓と澪。
 何かに気付いたのかカメラは急旋回すると、澪のお尻を捉え、ズームイン。
 彼女が歩くたびにスカートが捲りあがり、肌触りの良さそうなグレーの布が太ももとコントラストを作る。
「くう〜、許せない! 警察に突き出してやるんだから!」
 澪は怒り頂点とばかりにそう叫び、ふとあることに気付く。
「今のシーンもう一度……」
 真琴がビデオを手にし、真剣な表情で画面を見る。
 繰り返されるのは……。
「このスケベ!」
 澪のこぶしにより、真琴は脳天に強い刺激を受けたわけだった……。


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