雨の季節-3
「・・・う・・・うう・・・」
嫌な予感が当たってしまった。
母さんの美しい瞳から涙が流れ、痩けた頬を伝って落ちていく。
「あなたぁ・・・」
母さんの震える声がはっきり聞こえた。
雑音の荒波を掻き分けて、僕の耳目がけて、助けを求める様に飛び込んできたのだ。
「・・・母さん・・・!」
しゃがみこんで俯いている母さんを、後ろから抱き締める。
壊さない様に、包み込む様に。
握ってあげようと絡めた指先が凍える様に冷えて震えていた。
最初は俯いたまま肩を震わせていたけど、しばらくしてから顔だけをこちらに向けてきた。
「定彦・・・」
暗い穴の様な瞳が涙で揺れて、僕を見つめてくる。
僕以上に、母さんは雨を怖がっているのだ。
父親を事故で失ったあの日も雨が降っていて、それから何年も経った今でも、天気が悪ければ、こうなってしまう。
「大丈夫・・・僕がついてるよ、ね?母さん」
痩せた頬を撫でて唇をなぞり、鼻を親指で擦り、もう一度頬を撫でてあげた。
僕の体温を感じれば大抵は安心してくれるのだ。
これでも最近は少し落ち着いてきた方だ。昔は叫んだりして本当に大変だったから・・・
「ありがとう、定彦」
「か、母さん?!何を、やめっ、うわあ・・・!」
母さんが急に体をこちらに向けたと思ったら、僕をその場に押し倒してしまった。
痛々しい程に痩せ細った腕のどこにこんな力があるんだろう。
「・・・定彦ぉ・・・」
仰向けにされた僕の体に跨ったまま、上半身を倒して、顔を近付けてくる。
これは悪戯じゃない。怖いから、してしまうんだ。こういう事を・・・
体勢のせいで母さんの胸が押し付けられ重く乗しかかってくる。
でも、重いのはそこだけかもしれない。
あとは腕も細く、お腹も脂肪には恵まれず、下半身も華奢でお尻も大きくはなかった。
母さんは昔から何故か胸だけは大きくて、不思議な体型だと思っていた。
「・・・ここ、固くなってる、わよ」
「かっ母さん、やめろよ。していいなんて言ってないよね」
「ごめんね、定彦。そんなつもりで抱き締めたんじゃないわよね、そうよね、うふふふ」
細い指が俺の股間を触っている。さっきより母さんの顔に動きが出てきた。
口では謝っているが唇の端が微かに上がったままなので、本心とは思えない。
母さんの顔に生命力が戻っていくのを感じながら、僕はされるがままで体を横たわらせていた。