アップルパイ-1
「お、耕太もついに料理する気になったかぁ。何作んの?」
えっと・・・ボールに小麦粉を入れて、バターをほぐす様に手早く混ぜ水を加えて軽く練り、少し寝かせる。
次にリンゴを四等分して皮と芯を取り、5mm厚さのくし形に切り、鍋に入れ、砂糖を加えてリンゴが透き通るくらい迄煮て火から下ろし、バターとシナモンを加えて・・・
「おおい、耕太君。私の糞生意気な弟よ。返事はいいからこっち見ろよ、料理本もいいけどさ」
最初に作った生地を3:7に分けて、大きい方をパイ皿より一回り大きくのばして皿に乗せ、パン粉をまぶす。
さっき煮たリンゴを入れて周りに卵を塗り、残りの生地を丸くのばして上を覆い、十字に包丁を入れて卵を塗り、やや強火で25〜30分でオーブンで焼き上げる・・・と。
「なんだ、いたのか姉ちゃん」
「気付いてたくせに。来た時私の目を見ただろうが」
アップルパイが焼けるまで、瑞樹(みずき)姉ちゃんの話相手になってやるか。
「珍しいじゃん、あんたが料理する気になったなんてさ」
「出来ないよりは出来た方がいいだろ」
「それにしても、アップルパイかぁ。難しくはないけどずぶのど素人に出来るかなぁ〜」
オーブンの中を覗く姉ちゃんが俺を小馬鹿にするみたいに、尻を振っている。
そんなもん、普段から趣味で料理してる姉ちゃんにかなうわきゃ無いだろ。
「私にくれるの?」
「やらない。もし触ったらオーブンにぶちこむからな」
「おお怖〜い。じゃあ・・・誰にあげるの?」
聞かれたくない事を聞かれて思わず黙りを決め込む。
これは知られたくない、姉ちゃんが知ったら・・・
いくら家族でも、いやいや家族だからこそ知ってほしくないんだ。だって、絶対からかうに決まってる。
「自分で食いたくなったから」
「あんた、料理したくないって言ってなかった?どういう風の吹き回しかねぇ・・・」
まさか、しない筈の料理をする事になるとは、昨日迄の俺なら考えもしなかっただろう。
切っ掛けはバイト先の先輩の言葉だった。