描き直しのキャンバス-17
「俺はずっとこんな人の側にいました」
キャンバスにはヘタクソなへのへのもへじが描かれつつあるが、後輩をいじめる、髪の長い、笑顔の多い誰かの特徴を捉えていた。
「俺は先輩とここでしか会っていません。だから笑っているとき以外なんて描けません」
彼にすがりついたまま、彼女は視線を向ける。
「私はもっと美人だもん……」
出てくるのは嫌味だが、左手は彼のシャツをきゅっと掴む。
「知ってます」
「もっと上手に描いて欲しい」
「今はこれが精一杯です」
「なら、もっといろんな私を見て練習してくれる?」
「はい。これから一緒に描き直していきましょうよ。俺と先輩のこれから……」
「なに一人前に言ってるのよ、この童貞君……」
くすっと笑うはるかだが、秀人の膝に座りなおすと、右手を胸に抱く。
秀人は痛みに顔をしかめるが、彼女のしたいようにさせてあげる。
「まずはこの顔を描いて欲しいな……」
はるかは顔を上げ、目を瞑り、唇を窄め……。
***
鍵はしっかりとかけてある。
窓こそ開いているが、二階を覗く事は出来ない。
それでもイタズラな風が美術室をはしゃぎまわると、隅っこにあったケント紙が吹き上がり、狙ったようにキャンバスに重なる。
つまり、二つの絵はようやく完成したわけだが、二人がそれを知る必要は無い……。
「カサネテ」改稿 描き直しのキャンバス 完