投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

昏い森の最初へ 昏い森 24 昏い森 26 昏い森の最後へ

昏い森−黄昏(終章)-3

10日目の早朝。

降り続いていた雪は止み、屋敷の外はしんと静まった世界が広がっていた。

積もった雪は、まだ明けやらぬ空の下で仄白い光を放っている。

黄昏が屋敷から一歩踏み出すと、さくっという、雪の小気味良い音と、刺すように冷たい空気が全身を取り巻いた。

「行くのか?」

黄昏がはっとして、振り向くと、背後には黒髪の男が立っていた。

「暁を頼んだよ、暗夜」

男は応えず、髪の毛と同じ漆黒の瞳で、黄昏を見つめた。

凍えるような大気の中、黄昏は単に羽織を纏っただけで、如何にも寒そうに見えた。

「…死にに行くのか」
ー暁を置いて、という言葉を暗夜は飲み込んだ。

黄昏は薄く笑うだけで、何も言わなかった。

「月読はもう居ないんだろう?」

互いの吐く息は白く、煙のように広がった。

「そんなの、誰が分かる?」

黄昏は笑う。

「あいつがまた現れたとき、1番初めに会うのは私でなくちゃならない。…そうだろう?」

だから、また逢うために。

月読と初めて出会った、あの森で。
黄昏は彼を待つことに決めた。


黄昏は不意に黙った男の頭を、背伸びしてくしゃくしゃに撫でると、屋敷を出た。

暗夜はまだ薄暗い中、森へと進む小さな背中を見続けた。

その人影は一度も振り返らず、吸い込まれるように昏い森へと消えていく。


森の中は、木々の枝に雪が降り積もり、そのこんもりとした白さは、まるで月読が留まっているように黄昏には映って一層、心強く感じる。

黄昏は何も怖くなかった。
今はもう、楽しみでさえある。

踏みしめる雪は柔らかだが、すでに足先は痺れるように冷たかった。


今度こそ。

名前を呼んでもらうのだ。

小娘なんかじゃなく。

黄昏とー。


強く。


何度も。


昏い森の最初へ 昏い森 24 昏い森 26 昏い森の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前