第二話――魔人と聖人と聖女の王国-4
「そ、その着替えさせたのは――わ、私だ」
「……はい?」
「〜〜!仕方がないのだ!いや、仕方がないのは私ではなく周りが――きみの着替えならば私がやるべきだとっ……くぅっ……いま、思えばやはり謀られたのか?」
「ああ……」
パスクは納得した。
自分の連れである四人のうち、生真面目なジーンを除く三人――ケネス、ゲルハルト、パトリシアならば、そういった悪ふざけをするかもしれない。
――いや……十中八九、するはずだ。
それに、見たところエレナ姫の親衛隊にも自分やアリスに近い歳の者も多い。しかも、王女の親衛隊のため、多くは女性だ。
つまり、先の企みに加担する可能性は優にあった。
第一、 あの男前な隊長からして、嬉々として言い出しそうな性格に見える。
そこまで思案したパスクは未だに言い訳を続けるアリスを愛おしそうにその双眸に収めた。
「私は、アリスさんが着替えさせてくれるのが一番、嬉しいですよ?」
「んぐっ――こ、こらっ、パスク!その……まだ、朝だ」
「ふふっ。私がアリスさんを想うのに朝も夜もありません」
「むぅ…………。そういうことを平気で言えるパスクが羨ましいな……」
「大丈夫ですよ。アリスさんの想いならば口にしなくとも、ね」
「パ、パスク!」
「んっ――んっ、んんっ!……この馬車に乗ってるのはアンタらだけじゃ、ないんだけどね」
「あっ……」
咳払いと極めて不機嫌な声にアリスとパスクのじゃれ合いは止められた。
揃って見ると、白い猫型の魔獣――パンクチュアリエーム。
愛称はパン。
人語を解すことのでき、姿を消すことができるパスクの使い魔である。
しかし、それ以上の能力をアリスは知らされていなかった。