枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-74
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「次、ここに行ってみたいな……」
見知らぬ土地、緑に囲まれた道路をさつきは武彦の車で走っていた。
昨日の提案どおり、オリエンテーリングは智之と紀一に任せ、二人は観光めぐりをしていた。
「ねぇ、どうしたの? さっきから暗いよ? 武彦」
妙に暗い武彦に、さつきは痺れを切らして話しかける。今更武彦に愛想を振るつもりもないが、それでも隣で不機嫌で居られるのはめいる。
「ああ、なんか、そうなんだ……」
「武彦は聞きたいとこあるの?」
「え? あ、いや、俺はとくに行きたいところは……」
「違うよ」
「何が?」
「行きたいとこじゃなくて聞きたいところ……」
「それは……どういう意味?」
さつきが急に左を指差す。昨日立ち寄ったお土産屋の駐車場。
「少し話そうか?」
「ああ……」
彼が真実を話したとして、包茎の気持ち悪い男とよりを戻せるかは難しい話。
駐車場の端っこに車を止め、武彦は外へ出ようとする。しかし、さつきはシートベルトすら外さない。昨日のこともあり、もし守衛に見つかったら何を言われるかわからない。
「どうしたんだ? でないの?」
「いい。ここで話そう。その方がいいよ」
「なんで?」
「誰かに聞かれたくないし、もしかしたら辛くなるかもしれないし……」
辛いことなどもうありえない。武彦が真実を話してくれるのであれば、ここで終れるわけで、そうでないにせよ、お互いの中で楔にはなるはずだろう。
「ああ、わかったよ」
「うん」
クーラーの効いた車内はそれなりに快適。
さつきの思ったとおり、彼には勇気が無い。切り出すことも出来ずにうじうじ悩むのを見るのは大変深いなこと。しばらくしたあと、さつきは自分から口を開く。
「あのね、最近の武彦、すごく不機嫌だよね? あたしのせい?」
「なんでさつきのせいなんだよ」
「だって、一緒にいたりできないし……」
「バイトだろ? 俺だってそうだし、しょうがないよ」
「それになんか、あたしが船岡先輩と一緒にいると、不機嫌だし……」
全てはタイミングの悪さと夏雄のちょっとした小細工。だが、それでも彼が彼女を信じていたら、そうこじれることも無かったのかもしれない。
さつきは改めて武彦の堪え性の無さにため息をつく。
「ああ、そうだろうな。あいつ、さつきに気があるみたいだし」
「そんなことないよ。先輩、別にあたしなんか……」
そう言って口ごもる。彼は良子とかつて付き合っていたのなら、むしろ武彦に意識が向いていたのかもしれない。
「昨日、レクリエーションルームでなんかあったんだろ?」
「なにもないよ!」
見たとおりのことを疑わない彼には愛想が尽きる。
「じゃあなんで、お前泣いてたんだよ」
「泣いてない」
「泣きそうになってた」
「違うよ。そんなことない……」
「けど……」
「とにかく、武彦が思うようなことなんて無い」
「じゃあなんで……、なんで服が……変になってたんだ」
全ては夏雄の思うがまま、泳がされる彼。
「変って、何が?」
「だから、ずれてたろ……、服とか、下着とか……」
「そんなの……、違うよ。そんなことない。武彦勘違いしてるってば。誤解だよ……」
事実誤解であり、抗弁する気もない。
「やっぱり……」
「なんでそういうふうに言うの? 信じられない……。酷いよ武彦……」
あとは話をこじらせれば、堪え性の無い武彦のことだ、自分から終わりを告げるだろう。さつきもまた夏雄を倣ってシナリオを描く。