枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-68
「さつきは行かなくていいだろ」
思ったとおりに食いついてくる。
「でも、私がちゃんと準備してなかったからいけないんだよ。せめてこれぐらい、手伝わないと……」
暗い表情は笑いを堪えるのに必死。
「お前はいかなくていいよ。俺が行くから……」
「だって……」
「別について来なくていんだが……」
克也一人でいくのは最悪の展開だ。準備してある炭が無駄になる。
「おい、さすがに飲酒運転を看過するほど人はできてないぞ?」
克也も後輩の行動をたしなめる。だが、武彦は強く睨み返し、無言のままだ。
「お、おい、武彦、どうしたんだ? なんかあったのか?」
事情をつかめない紀一は二人の間に入ろうとするが、武彦は無言でそれを押し返す。
「なんだなんだ? どうかしたのか?」
今度は夏雄と良子がやってくる。ようやく焼けたらしい肉を頬張りながら、上機嫌の良子は、やはりウイスキーを呷っている。当然、夏雄のコップにはソフトドリンクがあるだけで……。
「いや、炭を買いに行くことにしたんですけど、武彦と船岡先輩が……」
「ちっ……あぁ、まぁそうか……。なぁ武彦、気持ちはわかるけど、そういうのはよくないぞ? さつきちゃんだって責任取りたいわけだし、そういうのは汲んでやれよ」
「なんだよ、だったら二人とも来るか?」
武彦の反対理由が嫉妬めいたものと気付いた克也は、鼻で笑いながら伝える。
「船岡先輩に手伝ってもらう必要なんて無いです!」
それを挑発と受け取った武彦は、きっぱりと言い切る。
「おいおい、それじゃ食いはぐれるっての……じゃあこうしよう。俺が行ってくる。それでどうだ? それなら文句ないだろ?」
夏雄が新たな選択肢を提案する。ここまでが事前の計画だが、はたして……。
「大丈夫、飲酒運転はしないから」
「な、なぁ、武彦、三谷先輩ならいいだろ? な、な」
紀一としてはこれ以上駄々をこねてもらいたくないらしく、強い口調で言い寄る。
「それなら……わかりました……」
「ねぇ、武彦、あたしも行っていいかな?」
もし反対するならそれでもいい。カーセックスの後始末は大変そうだから。
「勝手にしろよ……」
一方で、開放的なセックスを楽しめるチャンスかもしれないと、股間がうずくのを感じる。すでにさつきの中では……。
「おいおい、武彦も来ればいいじゃないか?」
夏雄がそう言うも、武彦は二本目のビールを求めてクーラボックスをあける。
「ほっときましょう。明日には機嫌も直るでしょうし……」
智之は無責任にそう言うと、鍵を夏雄に渡した……。
**――**
「バカな奴ですね……」
「だれが?」
助手席に座るさつきはつまらなそうに言い放つ。夏雄は誰のことだろうと考えるが、対象者は一人しかいない。
「普通行かせますか? ちょっと前までセクハラしてた先輩と自分の彼女、あいつ本当に目先のことしか考えないバカですね……」
「まあそういうな。克也があんな態度してたら疑いたくもなるって」
「でも!」
苛立つさつきは声を荒げる。自分の彼氏。付き合いこそそこそこでしかなく、身体の関係もない二人だが、それでも互いの長所を認め合い、尊重しあった仲だ。だが、等身大の彼は嫉妬に目が見えなくなり、「アレよりはマシ」という狭い範囲でしか物事を考えない、視野の狭い男。
もうさつきの中にも彼に対する愛想はなくなりかけており、車の中では終始不機嫌であった。
「まぁま、そのおかげで時間取れたんだし……、よし、着いたよ」
二人が向かったのは観光客を対象にしたお土産屋。往復にして三十分程度の場所にあるそこは、夕方にしては大型のトラックなどがひしめいていた。
さつきはしばらく迷ったあと、シートベルトを外し、後部座席に置かれたものを取り出し、着替え始めた……。