枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-48
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ふらふらと駅を目指すさつき。彼女の胸中に渦巻くのは怒りと嫉妬と後悔。
武彦は昨日良子の部屋に泊まったのだろう。
その場で何をしたのかはわからない。だが、男女が一夜を明かすことでどうなるかは身をもって体験したばかり。
きっと彼も良子に誘われるまま、いや、むしろ彼のほうから良子を……?
躍起になって武彦の浮気を疑うのは、夏雄との確かな浮気があってのこと。
――違う、あれはレイプだ。あたしはあいつにレイプされんたんだ。被害者なんだ。そうなんだ……。
浮気をする不誠実者となるぐらいならレイプ被害者を選ぶ。公にするつもりはないが、それでもそのほうが気持ちが落ち着く。
膣内に残るザーメンは洗い流した。トイレもベッドも、制服も洗浄済み。その痕跡というのももう無い。だから、レイプすらされていないと思い込める……。
ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ……。
振動音。携帯にメールが届いていた。
夏雄からだった。
気になることがあるから、相模大野の駅で待っていてくれ。
短い内容だが、これもまた逆らえない。
唯一の救いは定期がつかえることぐらい……。
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相模大野の駅で待っていると、夏雄が良子を連れてやってくる。
この二人にも肉体関係がある。だが、それはレイプのような卑劣なものでないことは、その様子からもわかる。むしろ、夏雄がどうしてさつきにたいして普通に接してこれるかがわからない。
「お待たせ」
「いえ」
やはり笑っている夏雄をかわし、さつきは改札へと向かった。
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夏雄に連れられて向かったのは良子の部屋。
ベッドと机、タンスにテレビといったごく普通の部屋。女の部屋らしくピンクのカーテンがひかれ、フローリングの床には少し前に流行った張替え可能の絨毯が敷かれている。
部屋の隅には何かの景品らしきぬいぐるみがお菓子を持ってたたずんでおり、一人暮らしの女の部屋といえば、平均的であったが、紙くずや包装フィルムで散らかっているのが気になる。
さつきは差し出されたクッションに遠慮なく腰掛ける。
「えと、なんですか? 用事って……」
「うん。なんかさつきちゃんの様子が変だったから」
盗人猛々しいとはこのことだろうか? 昨日レイプした夏雄の台詞とは思えず、耳を疑う。
「うん、なんかさつきちゃん、変だったよね。武彦君が来てから変に黙ってさ……」
「別になんでもないですよ。用ってそれだけですか? ならあたし、バイトがあるんで……」
「やっぱり昨日のこと、怒ってる?」
「はい?」
「だから、彼氏君借りたこと……」
申し訳なさそうというよりは、どこか挑発的な態度にさつきはいらだつ。
「借りたって、別に送らせただけじゃないですか。気にしませんよ」
「そう? でも、ほら、ねぇ、お泊りさせちゃったみたいだし……」
語気の荒くなるさつきとは対照的に、良子は楽しそうに言う。
「何もなかったんですよね? なら平気です。あたし、武彦のこと信じてますから」
「そう? それならいいんだけど……でも、私も酔ってあんまり記憶ないのよ……」
「そうなんですか? きっと何もないから記憶も無いんですよ」
それはむしろ自分に言い聞かせていること。夏雄とのことはけして嘘ではないのだから。