枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-29
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夕方、といっても夏の日差しはまだ強い。
駐車場に車を止めると、武彦は転げ落ちるように車を出る。
皆がバンガローに荷物を置きにいくのと逆行し、武彦はさつきを探しに走った。
「……それは胡椒を振って、たまねぎは輪切りにして……」
「……他には……」
調理場では誰かの話声。ドアをがらりと開けると、エプロン姿のさつきと克也が食材を前に笑いながら作業していた。
「さつき!」
「ん? あ、武彦、お帰り」
「船岡先輩は……仕事はいんですか?」
武彦はさつきの傍へと行くと、克也を睨む。
「ああ、さっきあらかた片付いたから、少し手伝おうと思ってな。働かざるもの、食うべからずってな……」
冗談めかして語るその声が癇に障る。自分が居ない数時間、彼が手伝ったという時間、それ以上に、彼が「仕事」をしていた時間が気になる。だが、尋ねたところで素直に答えてくれる希望もない。
武彦は行き場の見つからない怒りを胸にしまいつつ、彼女の作業を手伝うべく、タマネギを輪切りにする。すると鼻をツンと刺激するタマネギに涙がこぼれそうになった……。
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西の空が赤くなり始めた頃、メインイベントと成り代わったバーベキューが
始まる。
司会の智之の言葉に、皆缶ビールを掲げて乾杯。
炭の割れる音、肉汁の焦がす音、早くも二缶目を開ける音。それに混じる笑い声に、こびた声。
予定の崩れまくった合宿だが、この絵を見る限り、一応の成功といえるのだろう。
武彦は紀一、智之にさつきと一緒にビールを交わす。
「ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど、なんとか成功だな」
「ああ、そうだな。水漏れやらなんやでかなりわりをくったけどな」
日中干しっぱなしにした布団はしっかり乾いていたから、今日はしっかりと眠れるはず。武彦は紀一と向き合って苦笑い。
「でも、さつきちゃん、観光いけなくてよかったの?」
「うん、平気」
「なんなら、明日、武彦と一緒に回ってきてもいいよ?」
紀一の突然の提案に、武彦はビールを噴出しそうになる。
「でも、オリエンテーリングあるし……」
それはさつきにも驚きの提案だったらしく、目を丸くしていた。
「うん、まぁ、そうだけど、俺と智之でなんとかなるしな」
紀一は智之と頷きあう。彼らなりに気を遣ってのことなのだろう。
「っていうか、俺今日はずっとコイツの助手席に座ってたけど、なんかずっと機嫌悪いのよ」
「な、別にいいだろ! そんなこと……」
「もう、武彦ったら……」
しっかりと観察されていたことに気恥ずかしくなる武彦は、智之の背中をばしばしと叩き、彼もビールがこぼれまいと、それを庇う。
「まぁ、そういうわけだから……」
「おーい、智之、炭は? なんか火が弱いぞ?」
「え?」
見ると、向こうで夏雄が火バサミで炭を掲げている。
「え? 足りないの?」
さつきが急いで向かうので、三人もそれに続く。
よく見るとどれも炭が足りないらしく、勢いが無い。
「まずいなぁ、これじゃあ火が通るころにはおなかがすいてるよ」
「どうしよう、私のせいだ……」
食材担当のさつきは苦い表情になりながら、考え込む。
「とりあえず、炭集めて、火力の強いところでやるか?」
夏雄の提案に智之はグリルを集めだす。半生の野菜や肉を見ても、火力の足りなさが明らかであった。
炭を集めることで火力を確保することはできたが、十四人の胃袋を満たすには十分とはいえない。