枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-10
「お、おお……」
感心したように呟く良子。彼女は体育座りになりながら、その一部始終を見ている。
武彦はようやく半分といったところで、一度コップを置く。
鼻で大きく空気を吸い、口からふーと吐く。
「なんか、初めて飲みましたけど、結構いいですね……」
「お〜、言うね〜」
のんべえの良子は後輩の態度を挑発と取ったのか、ベッドの下をごそごそと探し、箱を取り出す。
「それは……」
「これはまた別のなんだけど、安心して。これを飲み干せとは言わないから……」
化粧箱に入ったそれはなんとも恭しく、取り出されたビンは作りかたからして違う。
「これはねえ、まぁ、もらい物なんだけど、少しなら飲ませてしんぜよう」
「ははあ……」
再び頭を下げるも、今度はそのままの意味で。
初めての体験とはいえ、ウイスキーの魅力を知った武彦は、今後飲む機会が訪れるかもわからないそれに興味を引かれていた。
良子は別のグラスを二つ持ってくると、さらに氷、水、マドラー代わりの箸をもってくる。そして、彼の分、自分の分と氷を入れる。
「それではお待ちかね……」
彼女は封を切ると、ゆっくりと注ぎこむ。
「まずはロックで……」
グラスを交差させたとき、品のよい音が鳴る。
気持ちをくすぐる香りと口当たりの良さ、じわじわと来るアルコールに、二人は目を瞑り、反芻する。
「ふぅ〜」
「はぁ〜」
だらしなく身体を投げ出す二人。しばらくは無言のまま、それでもグラスを強く握っている。
「それじゃ、ま、水割りでも……」
良子はミネラルウォーターを差し出すが、武彦は手で拒む。
「いらないの?」
「なんとなくもったいなくて……」
「あそ、まぁ、わからないでもないけど……、そうだ、ちょっと暗くしようか? そのほうが感じでるし……」
良子は蛍光灯を豆電球にして、FMラジオをつける。
オレンジの明かりが部屋を薄暗く照らし、ノイズの混じる音楽がぼんやりした意識に心地よい。
武彦はグラスを空けると、緑のビンに残るそれを注ぐ。
心地よい酩酊のまま、武彦はそれを呷ると、そのまま目を閉じた。