寄り道-3
「先生はなんで、高校の先生になろうと思ったんだよ」
「・・・女子高生が好きだからだ」
「いつなろうと思ったの。子供の頃から?」
言ってしまったのは仕方ないが、流されるなら冗談を言わなければ良かった。
まあ、和ませようとしてどじを踏むなんてのはよくある事だ。
「いや、大人になってからだ。先生になる前は普通のサラリーマンだったよ」
「マジで?!ぜんっぜん知らなかった!」
大学を出てすぐに教師になった訳じゃない。
暑い日も凍える日も営業の毎日で、自分が何をしているのか分からなくなって・・・
・・・俺が教師を志した理由はなんだった?
辛い営業から逃げ出す為か?
違う、そんな下らない理由で、少ない休みや時間を遣り繰りして勉強してたんじゃないはずだ。
明確な目標や夢を見つけて教師になろうとしてた、そう思いたかった。
「若槻は何をやりたいんだ」
「分かんないんだよなー。取り敢えず・・・社長」
「目標は大きい方がいいぞ」
果たしてどの口が言うのだろうか。
はっきり言って俺は大した人間じゃない。
今日だって、退屈を持て余していたからついてきた生徒の相手をしてるだけだ。
「でも目標とやりたい事は違うだろ。よく、いや全く分かんないけど、言葉の響きとして」
「似てる様で違うな。俺もうまく説明は出来ないが」
「とにかく、何もやらないってのだけは嫌なんだ。何でもいいからなんかやりたい」
普段はいつもふざけている若槻が、真剣に何かを自分の手で掴もうとしている。
目の前に答えを探そうとしている生徒がいるのに、今の俺に何が出来るのか。
俺が教師を目指した理由は・・・本当に何も無いのか。
なりたいからといって簡単になれるものじゃない。俺の心を突き動かしたものは、一体なんだったんだろう。
「若槻、これはあくまで俺の考え方だから、殆ど聞き流してもいいぞ。あのな・・・」
体を若槻に向けて、咳払いをした。
「いつも歩いてる道から少し外れてみるんだ」
「はぁあ?な、何の話だよ?」
「目的地に着くまでの道はひとつじゃない。沢山あるんだ。だから、たまには違う道を通る。そしてその道から他の道を見ると、違う様に見えるはずだ」
「ん、ん〜、大体分かる」
「ただひとつの道だけをがむしゃらに進むのもいいが、そういう方法もあるんだと覚えておくといい」
「それで、何が見えるんだよ」
情けないが分からない。
しかし、これだけは言える。