青かった日々〜切欠〜-4
「……懐かしいな、おい」
明に言われて来た場所は、山野辺荘から歩いて30分程にあるバッティングセンターだった。
中学生の頃はよく遊んでいたが、かれこれ一年近く足を向けていなかったので、それは懐かしくも感じるか。と直人は一人ごちる。
「工藤くん」
中は少し古臭いアーケードゲームや、クレーンマシーンなどが並んでおり、入って左手側にある幾つかの扉から、バッティングコーナーへと続いている。
久しぶりの感覚に周りを見渡すと、入口横のベンチに梓が座っていた。
悟史は、と聞くと、梓は指を指す。その方向に目を向けると、悟史が小さい男の子の後ろでアドバイスしているのが見えた。
「いつからやってんだ」
直人の問いに、梓は指を一本立ててみせる。
「最低でも一時間」
直人は元々大きめな瞳を、もう少しばかり開いて驚く。もし休み無くやっていたとしたら、小学生には酷だろう。
悟史が稽古をつけ始めてから梓は二人が休憩しているのを見ていないと言った。
というより、どこからその金を捻出したのか。多分、というよりかは確実に悟史が出しているのだろう。
せこい。というわけでもないが、人並みよりはシビアな経済観念を持っている悟史がその金を出しているほうに直人は驚いた。
だが、真剣な表情で少年にアドバイスをする顔を見ると、納得もしてしまう。
「桜木君て、野球やってたんだ」
呼ばれて梓の顔を見る。いつの間に席を立ったのか、その手には二本の缶コーヒーが握られている。
一本を受け取り、財布から二本分の代金を取り出す。梓は遠慮したが、直人は手間賃として無理矢理空いた手に握らせた。
「わかんのか」
「わかるよ。楽しそうだもん」
梓の言葉になるほど、と頷く。とりあえずその言葉は正しいだろう。人を見る目はあるらしい。
悟史が引っ越してから直人も梓と話すようになったが、一対一で話すのはこれが初めてだった。
悟史は、フラフラになっている少年に激を飛ばしている。