龍之介・四-3
自分の部屋に戻ったらもう9時半だった。まだ、寝るには早い。かといって特にする事もない。
(番号なんて知らないし、今更聞けるはずないだろ・・・)
姉さんは引っ越す数日前に携帯を新しくしていた。
アドレスを変えてなければメールは出来るだろうが、それも無理だ。出来るはずが無い。
今更どの面を下げて姉さんと呼べるんだ?
母さんや親父は俺達の本当の関係を知らないから、今でも仲が良いと思ってるんだろう。
それは、俺達が両親の前では普通の姉弟を装ってたからだけど・・・
¨あの日¨以来、俺は姉さんに相槌を打つのが精一杯になってしまった。
姉さんは被害者なのに普通に接してくれた、でも俺は・・・
(罪滅ぼしにはならないかな、やっぱり)
姉さんには仕送りは母さんと親父が一緒に出してるという事にしてるが、本当は俺の給料から出している。
少しでも姉さんの負担を減らせればと思ってそうしてるんだが、ただの自己満足かもしれない。
それくらいで許してくれるはずが無いのに・・・
「こんな時間に誰だ?」
着信があり、握り締めていた携帯を開くと、初めて見る番号が表示されている。
もしかして会社の人かと思って出てみる事にした。
「もしもし・・・」
返事が無い。試しにもう一度呼び掛けても同じだった。
「あの、もしもし?どちら様でしょうか?」
また返事が無い代わりに笑い声が聞こえてきた。
この時点で会社からじゃないなと思ったが、誰からなのか見当がつかない。
『敬語、意外と様になってるじゃん』
声を聞いた瞬間頭の中まで凍り付いた。
まさかこのタイミングで・・・漫画なら当たり前の展開だが、現実に有り得るとは思えなかった。
『まだ携帯変えてないと思って、一応かけてみたの。そしたら繋がっちゃった、こうやってね』
「俺が変えてたらどうするつもりだったんだ」
『母さんか父さんに聞けば分かる、と思う。変えたら少なくともどっちかには伝えるでしょ?』
・・・そうか。別におかしくはないか。
向こうからもかけようと思えば出来るわけだし、あとはその気になるかどうかだ。
家族の前じゃなく姉弟だけの会話は久々で、半年以上の溝が一瞬で埋まってしまった。
『あのさぁ、お願いあってさ、いや大した事じゃないんだけど』
「何だよ・・・」
『今度の休みいつ?その時にさ、こっちに来てほしいのぉ』
「用事でもあるのか」
『うん、大した用事じゃないの。でも龍くんしか頼れる人がいなくて』
ようやく気持ちが落ち着いてきたと思ったところで、なんてタイミングだ。