登下校を、御一緒に。-8
「伊藤…そんなに泣かないで…」
また、優しい言葉をもらう。
思わず、キモチを吐いてしまった。
「あたしの…あんな姿、見たのにっ…っく…
どうせ…あたしのこと、軽蔑、してるんでしょっ…!」
「オレ…オレの方こそ…お前に拒まれるかと…。
すぐに助けられなくて、ごめんな?
軽蔑なんて、してないから…泣くなよ…。…な?」
佐伯くんの声を聞いて、彼を困らせていることに気付いたあたしは、なんとか大きく息をついてみる。
あたしが落ち着いてくると、頭をぽん、と撫でくれてから、佐伯くんは言った。
「よし、それじゃ、学校行けるか?
駅員さんが学校に連絡してくれたけど、あんまり遅いと心配されそうだしな。
そろそろ次の電車来るし。
…その…下着…直してから、な?」
こく、とあたしは頷く。
そして、勇気を振り絞って、涙で崩れた顔を上げた。
"憧れ"から、"大々好き"へ変わった人の瞳を見つめ、お礼とお願いをする。
「佐伯くん、本当に色々とありがとう!
助けてくれたのが、佐伯くんで良かった!
それで、あの…ブラ直したいから、ちょっと、前に立っててもらってもイイ?」
「分かった。
…これでいいかな?」
「うん!」
佐伯くんが、あたしに背を向け、人目から陰にしてくれた。
急いでセーラー服の背に、手を回す。
……そして、気が付いた。
どうしよう…大変…!
「できたー?もう電車来るよー」
広い背中から、のんきな佐伯くんの声がする。
言わなきゃ…
「あのっ……」
黙ってしまったあたしに、
「…どした?伊藤?
…そっち、向くよ?」
と断ってから、佐伯くんは体を動かした。
あたしは慌てて胸元へ腕を戻し、涙声で状況を説明した。
「ブラがっ…ブラのホックが、ね…壊されちゃってるのっ…」
佐伯くんは目を見開いた。
「えっ…じゃあホックが止められないの?
その…それって直せないものなの?」
あ、そっか…
「ガッコ行けば…裁縫道具借りて、縫えるかも…」
「そうか。じゃあ急いで行こう。
ほら、電車入って来たよ、立てる?」
「ん…」
またカバンを前にかかえ、ドアの開き始めた電車へ向かった。