登下校を、御一緒に。-5
…えっ…?
人波が揺れて、痴漢の動きが止まった。
前の駅から15分ほど経って、また次の駅に着いたようだ。
あたしは、痴漢にイかされることは、なかった。
ちゅるっ…ぐぃっ!
そのまま痴漢の指は離れ、あたしの下着を戻したのが分かる。
…終わった…?
「はぁっ…」
イく寸前で手放され、思わず吐息を漏らしてしまった時、だった。
「待ちなさいっ!」
右の視界の隅の、ピンクの人物が叫んだ。
「あんた!痴漢してたでしょ!?
今、手を引いたの、見たよっ!」
あたしは、潤んだ視界で、そのヒトを見上げた。
…強気な木村佳乃の、OL版、て感じ。
ひゅっ、と、あたしからグレーの塊が身を引く。
ざわゎっ…と周囲が動き…こちらを向いた。
空間が開き、あたしはさっとカバンをかかえて、胸を隠す。
「…な、なんのことだっ…!」
ヤツが、弱々しい声で反論したので、あたしはやっと、怒りが湧いてきた。
「やったでしょう!?あんたが、痴漢でしょう!」
声は震えていたが、なんとか、叫べたんだ。
すると、木村佳乃似の女性は、あたしに駆け寄り、抱き締めてくれた。
その体温にホッとして、更に声を張り上げようとした、…その時。
「すみません、ちょっと通してください!…すみません!」
若い男の人の声…
…え!?
現れたのは…
「伊藤!!」
「…佐伯くんっ!?」
それからは、早かった。
周りの人達が協力してくれて、閉まる直前のドアを止め、痴漢を引きずり降ろし、駅員に引き渡し…
あたしは、テキパキと動く佐伯くんを見つめながら、木村佳乃似のヒトに抱きかかえられて、駅員室へ行く。
調書を書く間も、左腕でかかえるカバンごと、その女の人に抱いてもらっていたので、なんとか、全て書き終えることができた。
時間を確かめる余裕も無いまま、佐伯くんと女の人とあたしは、駅員室を出る。
とりあえずホームへ上がり、あたし達3人は、やっと顔を見合わせた。
あたしは、ちらっと佐伯くんと目を合わせてから、助けてくれた女の人へ向き、頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました!」
「いいのよ!
偶然あの瞬間が見えたから、とっさに大声出しちゃって」
にっこり笑ってくれるその人は、とっても美人だ。
「それより、あなた達は知り合いなの?
お互い、名前が分かってるようだけど…」
あたしは、もう一度佐伯くんを見てから、頷いて口を開く。