オカシな関係1-1
「あ、美佳ちゃんだ。美佳ちゃんだよね?」
私はファミレスでランチをとっていた。
いつもの店。
ここで食べるのが日課になっている。
まだ、なんにも言っていないのに男はにこにこ笑いながら私の正面の椅子を引いて座った。
私は営業スマイルで微笑んだ。
誰だろう。
思い出せない。
私は母さんと、スナックで働いている。
だから、その客の1人なのだと思う。
常連さんではない。一見さんにしたって、ここまで思い出せないことはめずらしい。
洗いざらしのくすんだグリーンのシャツにシーンズ。
年の頃は20代半ば?
うーん、弟よりは年下に見える。
体格は弟が人並み以上にがっちりしてるからなあ。
小柄。座ってしまっているからなんとも言えないけど、身長はヒールを履いた私と大差ないかもしれない。
「あ、おねーさん、こっちこっち」
私の背後に男が手を振った。
うーん。軽いな。
ウェイトレスがコーヒーを運んできていたのだが、この男が席を変えたせいで迷子になっていた。
「おまたせしました」
「ありがと」
ウェイトレスに笑いかけて小さく手を振る。
ウェイトレスもクスっと笑って、コーヒーは男の前に置かれた。
「元気そうだね。俺ね、ちょっと休憩なの」
そう言いながら、男はカップを口に付ける。
どうしても思い出せない。
私は曖昧に笑ったまま、頭の中はこの男のデータをさがしていた。
「それ。美味しい?」
男は私の食べかけの鶏の唐揚げ定食を指さした。
「え?まあ」
「じゃあ、今度時間があったら、それ食べてみよっと」
これ、日替わりランチだから常にあるとはかぎらないんですけど。
ま、唐揚げはあるでしょうけど。
「あーっと。時間時間。 あちっ」
男はさっき届いたばかりの熱いコーヒーを流し込む。
「じゃあまたね」
男は自分のオーダーを握って走っていった。
あわただしいことで。
結局、誰だか分からなかった。
…新手のナンパなのかしら。