オカシな関係1-3
あんまり美味しいから、一度、お店を聞いたことがある。
「このお店ってどこにあるの?買いに行きたいんだけど」
すると、男は困ったように笑った。
「売ってないよー。だってこれは俺がつくってんだもん」
「うそばっかり」
「うそじゃないもーん。内緒」
男は可愛らしく人差し指をくちびるにあてて笑った。
「あーずるい。おしえてほしーな」
「だめだめ。撤収!」
男はやっぱり手を振りながら帰っていった。
私はだんだん男に慣れていった。
お菓子を楽しみに待つようになった。
名も知らない男。
結局、私は男のことを思い出せないままでいる。
それとも、はじめから記憶になかったか。
「おや、めずらしいわね。ママー、ウワバミが来たよ」
「あら、ほんとだ」
「飲み会があったんだよ。歓迎会」
弟の圭ちゃんが店にきた。
会社帰りでそのまま飲み会だったのかスーツを着ていたけど、ネクタイは緩めるために引っ張ったのかよれていた。
「そのネクタイ取っちゃったら?」
「あ?ああ…」
ここに来ることは滅多にないのだけど。
決して仲が悪いわけじゃない。
圭ちゃんはネクタイを外してボタンを1つ外した。
「いいよ、勝手にやってるから、僕は。手伝おうか?」
「いいよ。もうすぐはねるしね」
ボトルに氷、グラスを渡した。
これでヤツは勝手にちびちびやるからほっとけばいい。
既に、お客さんはもう1グループだけになっていた。
そして、圭ちゃんがきてから、母さんとデュエットで1曲歌ったら帰っていった。
「ねえ。圭ちゃん、この箱、どこのか知らない?」
「はこぉ?」
「いつもお菓子くれる人がいるんだけど、どこで買ったか教えてくれないのよ。これこれ。」
私は白い小箱を圭ちゃんに渡した。
「この箱は知らないけどね…」
「いっつも1個なんだって。綺麗だし、美味しいの。母さんも美佳のを一口かじらせてもらったのよ。値段がベラボウじゃなきゃ、私もちょっと使いたいんだけどねえ」
母さんが洗い物をしながら口を出す。
圭ちゃんがなぜだが頭を押えている。
「お菓子くれる人って?誰?」
「ソレがわかんないのよね。向こうは私のこと知ってるみたいなんだけど」
「はあ」
圭ちゃんが大きくため息をついた。
これってなんか不審な態度だわね。
「あんた…。知ってんの?」
「かもしれん」
ポケットからケイタイを出すと、どこかへかけ始めた。
「寝ているとこ悪い。つかぬこと聞くけど、姉貴に餌付けしてんのお前か?」
餌付けとは失礼ね。
でもあれ?圭ちゃんの知り合いなの?なんかすごく親しげだけど。