下校途中の寄り道 (3)-2
「ここなら話せるでしょ!それに今日は土曜日だし授業はないわ。熱射病対策で
生徒も早めに帰宅したし。」
「ちょ、ちょっと何だよ。こんなところで。」
その映像を見ていた一人の女子生徒が声を上げる。
「これ、教育実習生の高橋先生と中村先生じゃないの?」
「本当だ!高橋と中村だ!」
生徒達が一斉にざわめく。しかし正之だけは一人沈黙を保っていた。
「教育実習生?というか高橋先生とか中村先生って誰?」
その独り言に順子が答える。
「正之、知らないの?ほら、1年の時にいたじゃない。篠原先生が亡くなった後に
2年に進級する前に短いけど授業受けてたじゃない。」
「あ、全然覚えていないなあ。」
「もう!数カ月前の話だよ。」
「ごめん、本当に覚えていないんだ。」
正之にとって教師とは畑中と佐和子、体育教官の国武だけだった。
それ以外の教師はついては全く知らず、名前すら覚えていない。
高橋学と中村美智子はW高校の卒業生で教育実習生であり、大学4年生だった。
二人はW高で知り合い、休日にはデートとかもして体を許し合った。
学校では恋人としての振る舞いはしなかった。その二人が仮眠室ともいえる
部室に入ってきて何をするのか・・・。
それはその後の映像が物語っていた。
時期はどうも9月の残暑が厳しい時期のようだった。どうやら正之と順子が
下校途中に海浜公園の岩場の砂浜で情事に溺れていた日のようだ。
美智子は授業が終わると無理矢理に学をこの仮眠室になっているどこの部も使っていない
部室に連れてきた。そしてドアを閉め、部屋にあったカーテンを閉め切ると
美智子は学を睨みつけながらこう切り出した。
「一体どういう事なのよ!」
美智子に凄まれた学は面倒臭そうな態度で逆に質問した。
「どういう事って何の話だよ。」
「とぼけないでよ!E組の鈴木君江と一緒に下校していたでしょう!」
美智子のこの発言に生徒達がさらにどよめいた。
「え、高橋先生って君江と下校していたんだ!」
「何だよ、俺鈴木を狙っていたんだぜ!」
しかし正之は相変わらず黙っていた。
「鈴木君江って・・・誰?」
その言葉に最初に反応したのが紀子だった。
「野村、知らないの?」
「初めて聞いた。悪いけど。」
順子がいら立ちを隠さずに正之に凄む。
「もう、本当に情報に疎いのね。鈴木君江って1年の時に同じクラスだったじゃない!
私も話したし、覚えていないの?」
「いや・・・本当に覚えていない。ゴメン。」
正之は当初は入りたくなかったW高に入学した事でクラスメートには興味はなく
その後は佐和子との情事に溺れてしまい、佐和子の他界した後は順子との情事に
夢中になったので順子以外の女子生徒には興味すら持たなかった。
その二人のやりとりに紀子が声をかける。
「まぁいいじゃん。野村は順子一筋なんだし。」
それに幸一が茶々を入れる。
「でもよう、野村もたまには別の女を見てみるのもいいじゃないのか?」
「でも俺あまり興味ないし・・・。」
冗談半分の会話だったが幸一の茶々にムッとしたのか順子は正之の右腕に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと何だよ。」
正之の動揺を無視して順子は正之の腕に抱きついた。
「ほら、順子怒ったじゃん。野村は順子と付き合ってるのがいいのよ。余計な事はしない。」
「まぁ俺は特に興味もないし、だいたい誰なのかもわからないからな。」
そんな4人のやりとりの中でもビデオはそのまま再生された。