下校途中の寄り道 (2)-3
「でも篠原先生の事は言っていないから。それだけは信じて。」
「信じるし別に大丈夫さ。しかし何でバレたんだろうな・・・。それに順子のお姉さんもとんでもない事を言うな。」
「わからないわ。何でだろう・・・。」
正之も順子もお互いが男と女になったという実感をまだ持っていなかった。
一方で佐和子の事を言われても動じなくなった正之は自らが人間として成長した事に
順子も、そして正之自身も気が付いていなかった。
その帰りに二人は合鍵を貰うので幸子の恋人で同じ大学生の長谷川純一のアパートに
自転車で向かった。しかし純一のアパートにいざ近づくと怖気づいたのか
二人とも途中で引き返そうとした。
「やっぱり・・・帰ろうか。」
「そうだよね・・・。」
しかし引き返そうとした二人を外で見ていた幸子と純一に発見されてしまった。
「二人とも何を逃げようとしているのよ。」
声をかけたのは幸子だった。
正之と順子は激しくビクついた。
二人は仕方なく振り返り正之は幸子と純一に、順子は純一にあいさつをした。
「あ、はじめまして。長谷川純一です。話は幸子から聞いています。」
「あ・・・はじめまして。野村正之です。」
「はじめまして。岡崎順子です・・・。」
幸子は正之の顔をまじまじと見た。
「話は順子から聞いているわ。うん。妹にぴったりの同級生だわ。」
「順子さんも野村君だったっけ。お似合いのカップルだね。部屋が一つ空いているし
俺の部屋はドアに鍵さえかけておけば問題ないから自由に使うといいよ。
あと台所でガスとか使わなければいいからね。合鍵は順子さんに渡しておいていいかな。」
そう言いながら純一はポケットから合鍵を出して順子に渡した。
「ありがとうございます・・・。」
順子は弱々しく感謝の言葉を述べた。正之もやはり弱々しく答えた。
「本当にありがとうございます。」
「何覇気のない返事しているのよ。カップルだからって別にやましい事じゃないんだから!」
幸子が明るく答える。
「下手に同伴喫茶とかラブホテルとか行くより俺の部屋を使った方がいいよ。ただ使う時は
幸子に一言言ってから使ってくれ。部屋があまり綺麗とは言えないからね。」
純一も明るく答えた。
「ちゃんと掃除しなさいよ。」
「わかっていますよ、女王様。」
明るく話す大学生カップルを余所に高校生カップルはまだ動揺していた。