過ぎ行く時の中、残されるモノ-7
見間違い?
いや、でも、さっき僕はしっかりと忠志の……。
「どうしたんだ? お前変だぞ? 和義。それより、さっさと探そうぜ?」
「な、何を?」
「だから、お前の……いや、ここから出る方法を……」
「出る方法? あ、あぁ、そういえば、さっきも……」
ほっとした。忠志は死んでなんかいない。さっきのはきっと見間違いなんだ。
そうだ、おかしいのは隆のほうで、忠志のほうが正しいんだ。
きっと忠志は僕がいつまでたっても帰らないから、心配して探しに来てくれたんだ。
ここから帰る方法も知っているみたいだし、きっと大丈夫!
「おら、さっさと立てよ」
忠志が僕に手を差し伸べてくれる。
口元をいやみったらしくゆがめているけど、多分、ここから戻ったら皆にいいふらされるんだろうな。僕が腰を抜かして怯えていたこととか……。
「危ない!」
僕が忠志の手を取ろうとしたとき、隆が現れた。
いきなり忠志を突き飛ばすと、僕の手を引っ張って無理やり立たせる。
「な、何するんだ! いきなり!」
僕は抗議の声を上げるけど、隆の奴は黙って忠志のほうを指さす。
なんのことだかわからないけど、僕は反射的にその方向を見る。
するとそこには、先ほどまでの忠志の姿はなく、左手の無い、頭のへこんだアイツらの仲間とでもいうべき存在が蠢いていた。
「ひっ!」
「まだ姿を保っていられないんだろうな。逃げよう。ほら早く!」
「う、うん!」
僕は隆に引っ張られる形でその場を後にする。
後ろからは忠志の僕を呼ぶ声がしたけど、でも、忠志はやっぱり……。
〜〜**〜〜
僕らは建物の一角に身を潜め、休んでいた。
「はぁはぁ……、忠志が、アイツらの仲間に……なるなんて……」
信じられない。というか、信じたくない。
これじゃあまるで本当にバイオハザードの世界じゃないか。
「なんなだよ。アイツら本気でゾン……」
「バタリアンみたいなもんさ……」
ゾンビといいかけて、先を越された。
「バタリアン? 何それ?」
知らない言葉に戸惑った。けど、隆はそんなこと気にも留めずに続ける。
「映画だよ。死体が動き出して、そいつらは皆、生きてる人間の脳みそを狙っていて、食われた奴は皆バタリアンになっちまうっていう映画……」
「知らない」
「そうか? そういうの苦手なんだ」
苦手っていうか、嫌いじゃないほうだった。ゾンビ映画ならバイオハザードなら見た。でも、バタリアンなんていう映画は知らない。名前も聞いたことがない。
さっきも思ったけど、隆と話をしていると、なんか食い違う。違和感があるというか、まず、明らかに違うことが……。
「それより、思い出せないか? さっきの続き……」
「いや、別に……」
「車とか、なんか思い出せないか?」
「車? そういえば、なんか暗いところにいて、それで、何か湿った感じの絨毯が……」
「湿った感じか……、他に?」
「他に……」
――湿った感じがした。あと、鉄……じゃなく、タバコの臭い。他にも黴臭さとか土のにおいとかも……。
――そういえば、窮屈な感じもした。
――それと、誰かの話し声。
――男の人。大人の。でも、知らない人。とにかく言い合いをしていたと思う。
――で、明かりで照らされて、そのあと息苦しくなって……。
――夢中で暴れて、何かに噛み付いて、そんでそのあと……。
「何かで殴られた」
僕がとつとつと話していると、隆が口を挟んできた。