過ぎ行く時の中、残されるモノ-2
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少し歩いていると、明かりのある場所に出た。
燈色に光る電灯の下にケージ。鉄パイプが赤錆塗れになって詰まれている。
廃工場っていうのかな?
何年も使っていないのか、埃が溜まっていて、たくさん足跡があった。
僕の靴と比べてみると大体おんなじ。新しいものもいくつかあるし、もしかしたら忠志のもあるかもしれないと思い、探すことにしたんだ。
そしたら、奥のほうで物音がした。
誰かいる?
そう思った僕は、急いで駆け出した。
曲がり角の建物に誰かの影が映る。それも二つ。
赤い壁に浮かぶ影、光の角度で伸びたそれはまるでお化けみたい。けど、この際、お化けでもなんでもいいよ。一人でいるよりずっとマシだもん!
「待ってよ、待ってよ!」
さっきから痛む右半身を引きずりながら、僕は懸命に走った。
けど、影はどんどん遠ざかり、ついに見えなくなった。
「待ってよ……一人にしないでよ……」
辛くなった僕は、とうとう座り込んだ。
ぼろぼろと涙が頬を伝う。
なんでこんなところにいるんだろ。
どうして逃げられたんだろ……。
こんなに悲しい思いをしたのは初めてだ。
一人がこんなに辛いなんて、心細いなんて思わなかった……。
「……誰か居るの?」
「え?」
そしたら、上のほうで声がした。
藁にもすがる思いで声のほうをみる。
最初、暗がりでよく見えなかったんだけど、だんだん目が慣れてきて、建物の二階の窓から誰かがこっちを見ていた。
「ひっ!?」
けど、なんだか様子が変。だって、その子、顔の左の辺りがぐちゃぐちゃになってて、目はたんこぶみたいのでふさがって、唇が変な感じに広がってるんだもん。
怪我とかそういうんじゃなくって、明らかに……。
「か、顔……」
混乱と恐怖から、僕は目を瞑った。本当は逃げ出したかったけど、脚がすくんで動けない。
「僕の顔がどうかしたの?」
「だって、君の顔……」
おそるおそる目を開いて、もう一度上を見る。
男の子は僕に手を振っているけど、その顔はなんともない、普通の子……。
「あ、あれ? どうして? さっきは……確か……」
「見間違いじゃない? それより、君はそこで何をしているの? ここに迷い込んだの?」
「え? あ、うん。なんかさっき目が覚めて、で、ここにいたんだ」
「そう……、じゃあ、ここを出る方法を教えてあげるよ……、待ってて、今そっちに行くから。ああ、そうだ、もしかしたらアイツらに見つかるかもしれないから、念のため隠れていて……」
男の子はそう言うと、背を向けて駆け出す。僕は言われた通り、近くの建物の影に身を隠し、あの子が来るのを待つことにした。
あいつらって何? さっき僕のことを見て逃げた子達?
違うよね。もしそうなら、逃げる理由がわからないもの。
でも、よかった。誰か居たんだもん。ここから帰る方法もあるみたいだし、なんだか安心したよ……。
あーあ、早く帰ってごはんが食べたいよ。母さん、怒るだろうけどさ……。
そんなことを考えながら居ると、足音がした。
さっきの子が来たんだと思い、僕は建物の影から顔を出す。
「来てくれたんだね。よかった、一人じゃ心細い……って……!?」
赤い電灯の下に居たのはさっきの子じゃない。
頭から血を流したどころか、なんか別のものとかいろいろ垂れ流している子だったんだ!
「ああ!?」
「ぎゃああああああああああ!!!」
ソイツは僕に向かって手を伸ばしてくる。けど、一瞬気付くのが早かった僕は、その手を払いのけ、右半身の痛みも忘れて走り出した。
「あ、誰だ……誰なんだよ、お前は! 俺は! 教えろ、教えてくれ!」
ソイツは意味のわからないことを叫びながら、僕のほうへと近づいてくる。
さっきの子には悪いけど、でも、僕はとにかく走った。待てとかいうけど、何をされるかわからないんだもん。
迷路のような通路を右に左に駆け巡る。
どんどんさっきの場所から離れていくけど、でも今はそれどころじゃない。
多分、さっきの子が言ってたアイツらっていうのは、さっきのソイツなんだと思う。
あんなのに捕まったら何をされるかわかったもんじゃないよ!!