JoiN〜EP.5〜-3
「本番いきます!」
その一言で、生徒達の表情が強ばった。
笑っていた子達も、まだ余韻を引き摺ってはいるが動きが止まる。
談笑していたスタッフ達も静まり返り、教室の中を見えない緊張が侵食していく・・・
(栞菜、だいじょぶっすかね)
(これに打ち勝てなきゃ女優にはなれないから)
「試験なんていらないよな。先生もそこは手抜いて簡単にしろっつうの」
「力のいれどこ間違ってるよね。文化祭とかつまんないのに、そこでしょ本番は!」
まだだ、栞菜の出番は。次の・・・次だ。
今の男女ペアも確かこのドラマがデビューかな。いわば栞菜の同期みたいなもんだ。
「やっばぁ〜携帯忘れた!取ってくる!あ、悪いけど、出席の時代わりに返事しといて」
女子生徒が栞菜の肩をぽん、と叩いて立ち上がった。
この子は、確か何回かドラマの経験があった気がする。だから台詞も長めで動きもあるのか。
さあ次だ!栞菜、いよいよデビューだ。
「いいよ〜」
はっきり聞き取れた。
んん・・・っ、なんという、可愛さなのだ!!
「やっぱやだ、めんどい」
いい、いいぞ栞菜!この台詞だけで、お前の役どころは説明できる!
素直で可愛くて、ひたすら可愛い女の子、地上に舞い降りた天使だと。
「はい、OKでーす!!」
名残惜しいが、栞菜の台詞はここで終わりだ。
カットがかかった瞬間、生徒達が立ち上がってそれぞれのマネージャーの所に駆け寄っていく。
分かるぞその気持ちは、うん。早く安心する場所に戻りたいというのはな・・・
「栞菜!お疲れ、こっちおいで!」
立花さんの呼び掛けに笑顔を見せた。しかし、立ち上がろうとしない。
どうした、早く来ないとおしりを叩かれるぞ。この人はそれが生き甲斐だからな。
手を振ってないでさっさと来るんだ。
この俺の熱いハグが待ってるぞ、胸に飛び込んでこい。お前の帰る場所はこの汗臭いシャツの中だ。
「・・・あ・・・」
栞菜が立ち上がり、何歩か歩いたその時、急に頭がガクンと下がり・・・
「栞菜っ!!!」
飛び出して、その決して大きくはない体を抱き締めた。
危うく目の前で大事な彼女を転ばせるところだったが、一安心だ・・・